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剣の丘に花は咲く 
第十四章 水都市の聖女
第八話 聖竜と乙女
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とその続きを語りだす。

「あわやこれまでと思った時、空を翔ける銀の竜が現れた。聖なる光を放つ竜は、次々に悪の艦隊を打ち破り、ロマリア艦隊に勝利をもたらした、か」

 禄な抵抗も出来ず、味方の船が虫のように落とされていく光景を見つめる。何十もの船が一斉に大砲を、何百のメイジが魔法を放つが、銀の竜には一つとして当たりはしない。それどころか碌に狙いもつけれないのか、味方を誤射する姿も見かけられた。勝利を目前にしていた筈が、もはや風前の灯火。その鮮やかなまでの逆転劇に、クラヴィル卿とリュジニャン子爵は、まるで何かの物語を見ているかのような気分にさせられた。
 
「リュジニャン。お前ならばその物語に一体どんな題を付ける?」
「そうですな……」
 
 悩むような唸り声がリュジニャン子爵の口から漏れた時、砲撃の雨を掻い潜った銀色の輝きが、進路をシャルル・オルレアン号へと向ける。近づく銀の輝きが段々と大きくなる。小さな点が、どんどん竜を形作っていく。あの銀の竜の突撃を受ければ、例え史上最大の船であるシャルル・オルレアン号であっても耐え切れない。それが分かっていながらも、二人の顔に焦りは見えなかった。それどころか、何かの物語の中に入ったかのような現実感のなさに、笑いが漏れていた程であった。そんな二人の笑みが、目に飛び込んできた光景により驚愕に変わる。
 二人の目に飛び込んできたのは、接近してくる竜の背に跨る少女の姿。
 銀色に輝く竜の背に、青い衣の上に銀の甲冑に身を包み込んだ少女。
 現実感の感じられない、まるで物語のワンシーン。
 その姿を目にした瞬間、リュジニャン子爵はふっと力の抜けた笑みを浮かべると、隣のクラヴィル卿に顔を向けた。クラヴィル卿と顔を見合わせる。クラヴィル卿の顔にも、何やら力の抜けた、諦めた笑みが浮かんでいた。

「―――“聖竜と乙女”等は、如何ですかな?」
「何とも美しい“英雄譚”になりそうだ」
 
  

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