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剣の丘に花は咲く 
第十四章 水都市の聖女
第八話 聖竜と乙女
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に、クラヴィル卿が“遠見”の魔法を解除して顔を隣に立つ者へと向けた。
 隣には艦隊参謀のリュジニャン子爵が何時の間にか立っていた。

「確かに神々しいともいえる竜だ……しかし、銀色の竜など見たことも聞いたこともないぞ」

 味方の船を落とした船であり、敵であるのは間違いない。にも関わらず、二人の胸に湧き上がるのは味方を落とされた事による敵意や怒りではなく、畏怖に近い感動と興奮であった。
 銀色の閃光を残し空を翔ける竜の姿に、知らず呟かれるのは自然に生まれた憧憬の思い。
 聖なる輝きを放ちながら空を進む姿が、余りにも美しすぎる。
 強く、美しく、そして神聖さを感じられる竜。
 
「あの竜は一体何なのだ?」
「分かりません。が、あの竜を見ていると、どうしても馬鹿な考えが浮かんでしまいますな」

 クラヴィル卿の疑問に、首を左右に振りながらもリュジニャン子爵が苦い顔で笑った。

「ふむ、奇遇だな。俺も同じように馬鹿な考えが浮かんでいたところだ」

 チラリとリュジニャン子爵を見たクラヴィル卿が喉を鳴らして笑った。
 両用艦隊のトップの二人が甲板上で並んで笑っている間も、銀色の竜は次々に船を貫き破壊していく。既に三分の一の船がその身を砕かれ地上へと落ちていた。未だ健在な船も混乱に陥り、まともな対処が出来ていない。中には慌てて逃げ出し近くの船と接触し自爆している船の姿も見える。加速度的に両用艦隊の船が落ちていく中、トップの二人が味方の船が落ちていくのを見ながら笑っている姿には狂気的なものが見えた。
 
「リュジニャン。そう言えばお前は、この戦いが後世の劇作家の格好のネタになると言っていたな」
「ええ、確かに言いましたな」
「お前はどう思う? この戦いをネタした劇作家が作る物語は喜劇だと思うか? それとも悲劇か?」

 近くの船が銀の流星に貫かれた後、爆発した。両用艦隊の中で最も小さかったその船は、空気の入れ過ぎた風船のように四散したが、不思議な事に炎の姿は見えなかった。内部の火薬に火が付いたという訳ではないようだ。クラヴィル卿は爆圧により乱れた髪を手櫛で直しながら、耳鳴りに顔を顰めながら隣に立つリュジニャン子爵に視線を向ける。

「さて、砲甲板で反乱が起きた時は喜劇かと思いましたが、この光景を見るとまた別の考えが浮かんでしまいますな」
「ほう、またまた奇遇だな。俺も丁度同じことを考えていた」
 
 二人は顔を見合わせるとニヤリとした笑みを浮かべた。

「ブリミル教の教皇の御座す都市へ迫る悪の艦隊。その前に立ち塞がる勇敢なるロマリア艦隊。しかし、数の差は歴然。時と共にロマリア艦隊は劣勢に追いやられていく」

 歌うように物語を語るように話しだしたリュジニャン子爵に驚くことなく、クラヴィル卿は面白そうに笑う
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