第十四章 水都市の聖女
第八話 聖竜と乙女
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の背から落ちれば死は免れない。
熟練の竜騎士であっても、十秒も持たない速度を維持しながら、セイバーは空を飛んでいた。
引き剥がされないように手綱を強く握り締め、抱きつくような前傾姿勢で騎竜の背に跨るセイバーは、着実に身体を苛む風や寒さを気にする暇がない程に焦りに満ちていた。
「これでは、間に合わない」
焦りと激情に思わず手綱を握る手に力がこもる。
主人の焦りに応えるように、限界と思われていた速度が更に上がる。主人の思いに応える竜の行動に、セイバーは軽く目を開くと小さく首を左右に振り額を竜の背に触れるように押し当てた。
「すまない……少し焦りすぎていた」
竜の硬い鱗を通して、気にするなとばかりに喉を鳴らす音が振動として額に当たる。くすぐったそうに頬を緩ませたセイバーは、直ぐに顔を厳しく引き締めると目線を上げ進むべき目的地を睨みつけた。
目的地はガリアとロマリアとの国境。
そして目的はそこで発生している戦闘へ参加すること。
戦闘が始まってから既に数時間は経過している。通常の戦闘であれば戦いの趨勢が決まっていてもおかしくはない。
しかし、セイバーの焦りは戦いに間に合わない事ではなかった。
「―――あの者は一体何を考えているのだ」
眉を顰ませながらセイバーは思い返す。
教皇ヴィットーリオからの命令を聞いた時の事を。
教皇からの命令だとジュリオはルイズに『虎街道に潜む敵を殲滅せよ』と指令をだすと、水精霊騎士隊にその護衛を命じた。セイバーは勿論自分もそれについていくものとばかり考えていたが、個別に『ロマリア艦隊を支援しろ』との命令を受ける事になった。敵の中に虚無の使い魔であるミョズニトニルンがいる可能性が高い状況で、最も戦闘能力の高いセイバーがルイズの傍から離れるのは間違った判断であると誰にでも分かる事だ。直ぐにセイバーは命令の撤回を求めたが、ジュリオは航空戦力の少なさを理由にそれを了承する事はなかった。
その際、風竜を使い魔とするタバサもその命令を下されたが、魔法学院への緊急の連絡のため風竜を使いに出しているということで命令を受ける事はなかった。
実際には、丁度その頃タイミング良く韻竜とは知られていないシルフィードを人間に変身させ、士郎の行方を探らせていた。そういうわけで、タバサはルイズたちと行動を共にし、もしものためシェフィールドはアクイレイアに置いていくことになった。
一人国境での艦隊戦へ赴くことになったセイバーの心中では、これから飛び込む戦場の事ではなく、ルイズたちに対する心配が占めていた。士郎がいない今、いざという時にルイズたちを守れるのは自分しかいないことを、セイバーは良く分かっていた。教会騎士に対する信用がないといった話ではなく、根本的に実力が足りないのだ。
伝説
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