第十四章 水都市の聖女
第八話 聖竜と乙女
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―――竜……それは、遥かな過去から力の象徴として扱われていた存在。
―――他を圧倒する巨大な体躯。
―――身体を覆うあらゆる攻撃を防ぐ硬く強靭な鱗。
―――天を翔ける雄々しき翼。
―――剣を折り鎧を砕く鋭い爪牙。
―――権威と力を具現した存在。
強く、大きく、偉大なるもの―――それが竜。
その竜が、ハルケギニアには数多く存在する。
長いハルケギニアの歴史を見れば、火竜、水竜、風竜、土竜―――他にも滅びたとされる韻竜と呼ばれる竜の名も見られる。
他の多くの動植物同様に、竜もまた調査や発見により知られる“名”を増やしていった。
そんな無数に存在する“名”の中に、一際目を引く竜の“名”がある。
―――“聖竜”―――
“火”“水”“風”“土”―――そのいずれでもない“聖”の竜。
“火”に属する故に“火竜”
“水”に属する故に“水竜”
“風”に属する故に“風竜”
“土”に属する故に“土竜”
ならば“聖竜”とは、“聖”に属する故に“聖竜”なのか?
その答えは“否”である。
ハルケギニアに数多く残る本―――歴史、娯楽、研究様々な分野に残る“聖竜”に関する記述によれば、“聖竜”の属するところは“風”であったという。
では、何故その“風竜”は“聖竜”と呼ばれたのか?
そして“聖竜”は何を持って“聖竜”と呼ばれたのか?
それを知るのには、歴史書や研究書ではなく、吟遊詩人が歌う詩や親が子に読み聞かせる物語から知るのが良いだろう。
何故ならば、始めて“聖竜”が現れたのが、それこそ物語のような話であったからだ。
始まりにはこうある。
―――戦場を切り裂き舞い踊りしは、銀光に輝く聖竜を駆りし美しき乙女
まばらに白い雲が広がる青空の下、一匹の竜が空を飛んでいる。
「―――遅い」
轟々と津波にも似た風音を耳に受けながら、セイバーは厳しく引き締められた口元から愚痴めいた言葉を零す。
遅い―――という言葉とは裏腹にセイバーの進む速度は速かった。
雲を切り裂き、風を追い越し、眼前に広がる景色は一瞬毎に背後へと消えていく。
尋常ではなく、と言葉が付くほどの速度である。
空を飛ぶものがいれば気でも狂ったかと思うほどの速度だ。
何故ならば、打ち付ける風は物理的な硬さを持って全身を殴りつけ、常に騎竜から身体を引き剥がそうとするだけでなく。高度故に吹き付ける風は真冬のそれに劣らぬ程に冷たく、防寒対策を取っていたとしても、長時間続ければ凍傷となるのは免れない危険性もある。体温の低下から意識を失い竜
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