第三十八話 もう一つの古都その九
[8]前話 [2]次話
「重厚だな」
「銅のせいかしら」
「だろうな、そのせいで」
その銅の、というのだ。
「あたしが見る限りはさ」
「そうなのね」
「さて、この東大寺の次は」
「はい、阿修羅像を観て」
「それとだよな」
「正倉院にも行って」
そして、とだ。桜は薊に楽しそうに話した。
「それと志賀直哉の家にも」
「そういえば志賀直哉って奈良にいた時期あったな」
「はい、関東大震災で被災して」
そうして暫くの間関西に逃れていて奈良にいたのだ。だから彼の邸宅が奈良市に残っているのだ。
「この奈良市にいました」
「だよな」
「意外なことでしょうか」
「志賀直哉って関西のイメージないんだよな」
薊は首を傾げさせて言った。
「あたし的には」
「城の崎にて、ですね」
「そうだよな、確か宮城県生まれで」
「はい、仙台藩家老の家の出です」
「それで東京にいたんだよな」
育ちは東京なのだ、学習院に通っていた。
「だからな」
「関西の印象は少ないですね」
「あたし的にはな」
「私もです、あまり」
桜も首を傾げさせて述べる。
「あの人は」
「関西じゃないよな」
「それでもです」
「ここに邸宅があるんだな」
「それで行くということで」
「そうだな、どんな家か見てみるか」
薊は志賀直哉の家に行くことも楽しみにしてだ、東大寺を後にした。そして外を出るともうそこにはだった。
鹿達がいる、薊は自分達のところに寄って来る鹿達を見て少し苦笑いになって言った。
「本当に鹿多いな」
「奈良市はね」
裕香がここでも応える。
「さっき言った理由で」
「春日大社のせいか」
「せいっていうか」
「何時でも何処でもわらわらいるな」
奈良公園やその辺りではだ。
「しかも人間を全然怖がらないな」
「全くね」
「このこともさっき話したけれどな」
「そうした子達なのよ」
「人間に慣れ過ぎでしかも甘やかされ過ぎだろ」
「神様の使いだから」
ここでもこう言う裕香だった。
「だからそうした子達って思ってね」
「相手するしかないんだな」
「薊ちゃんも別にこの子達にどいうかするつもりはないでしょ」
「悪戯とかかよ」
「いじめたりとかね」
「あたしは誰もいじめないよ」
いじめという行為そのものについて嫌悪を見せてだ、薊は裕香に答えた。
「それこそな」
「そうよね、薊ちゃんいじめ大嫌いだから」
「自分より力が弱いだけの相手いじめるなんてな」
やはり嫌悪を見せて言うのだった。
「そりゃ一番弱い奴のすることだろ」
「薊ちゃんいつも言ってるわね」
「力は何の為にあるか」
これも薊がいつも言っていることだった。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ