明日への翼
01 RAIN OF LOVE
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ってるじゃないか」
「なん……て言ったらいいのかな。二人を見ていると安心するの」
「うん?」
「写真部に「野上」っていう人いるでしょ」
「?…あーっ、この間の」
「そう、螢ちゃん達が頼み込まれてモデルになってあげた人」
「彼が何か?」
「あの時取った写真でね、彼、コンクールの大賞をとったそうよ」
「そう言えば、お礼の手紙が来てたな」
「呑気ね、相変わらず。後で電話で話したんだけどさ「あれは俺の腕じゃない、モデルに恵まれただけだ。あの絵は二人のどちらが欠けても撮れなかった」って不満そうだったわ」
「ふーん」
「なによ。気のない返事をして。……ベルダンディーとはどうなの?」
「どうって?」
「もう抱いたの?ベルダンディーを」
「お前な、往来の真ん中でそんな話をするなよな」
「いいじゃない別に。人目を憚る仲じゃあるまいし。でも避妊はちゃんとしてあげてね」
「そこまで話した時だった。螢ちゃん、突然交差点に走り出したの。倒れている三嶋さんが立ち上がるところだった。車が走ってきて……螢ちゃんは…三嶋さんを突き飛ばして……」
沙夜子がしゃくりあげながら続ける。
「ヒールの踵が折れたのよ。痛くてやっと立ち上がったところに……」
打ち所が悪かったのか、救急車と彼の異変を感じ取ったベルダンディーが現場に来たときには、もう息を引き取っていた。
運転していた男は軽症でいまは警察で事情聴取を受けているらしい。
後になって知ったことだが、居睡り運転だったそうだ。
事故だ。
だが、その一言で終らせてしまうにはあまりにも。
「ベルダンディーは、あの娘はどうしたの?いないけど」
「ほんのついさっき出て行ったわよ。あわなかった?」
ウルドは廊下へ駆け出した。
ややあって、千尋が口を開いた。
「三嶋さん、今日はもう帰って。いまはみんな取り乱しているから何を言われても無駄よ……早くしなさいっ、私、あなたを殴りたいのを必死で押さえてるんだから!」
沙夜子は暗い眼をして背を向けた。
足を引き摺りながら出て行こうとする。
「ひとつだけ言っておくわよ。森里君はあなただから助けたわけじゃない。他の誰かでもそうした。これだけは忘れない事ね」
廊下に出たウルドはベルダンディーの波動を探った。
遥か上。屋上か。
転移術で病院の屋上に飛ぶ。
冷たい風が頬を打つ。
どんよりと曇った空。いまにも雨が降り出しそうだ。
無愛想なコンクリートの床。貯水システムや浄化装置、その向こうにぽっかりと広場のような空間が広がっている。
ぽつん、と、まるで置き忘れ去られた人形のように立つ人影。
「ベルダンディー……」
掛ける言葉がなかった。
目の前にいるのはベルダンディーの形をした抜け殻だ。目は開けているが何も見て
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