縋るモノに麗しさは無く
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に小さな声で尋ねかけた。感情が含まれず、重く冷たい刃となって彼女の心に突き刺さった。
ぐ、と唇を噛んで、麗羽は渦巻く闇色の瞳を覗き上げる。
「……あの二人の命を、助けてくださいまし」
「お前がそれを言うのか。“俺”から友を奪ったお前が」
麗羽は知らない。彼が記憶を失っている事を知らない。故に、その弾劾の言葉は真っ直ぐに彼女の胸を穿り抜く。
自分本位な願いだとは分かっていた。だがどうしても、麗羽は彼女達二人の命を救いたい。
いつも以上に頭を回す。目の前に立つ男の情報を思い出し、せめて何か糸口はないかと考えた。
「此れからの乱世を越えて行くにあたって、あの二人をそちらの軍の将とすればあなたや華琳さんの作りたいモノの為になるのではなくて?」
「……お前を殺した軍に従うとは思えないが?」
「あの二人も夕さん……田豊の死に思う所がありますから、説得すればきっと聞くと思いますわ」
一時の感情よりも乱世を優先するモノが黒麒麟。彼が白蓮の救援に向かわなかった事実があるから、そう考えてせめてもの交渉を行った。
自分の為に死んでくれるのは嬉しくもあるが、こんな自分の為に命を散らす事は哀しい。麗羽の心に浮かぶのはそんな想い。
すっと細まる彼の目は只々冷たく、昏かった。
「……そうか、お前は……聞いてた話と違ってバカじゃねぇんだな」
今置かれている立場が分かっていないのか、とは彼も言わない。そんなつまらない事を話すつもりなどなかった。
納得したと同時に引き裂かれる口。麗羽はゾクリと肌が粟立った。
――な、なんですのこの男……。
もう用は無い、というように彼は背を向ける。麗羽の願いを聞き届ける事もなく、拒否するわけでもなく、只々傍若無人に。
小さく声を掛けようとした。答えを教えて欲しくて、二人を助けてくれるのか知りたくて。
しかして彼が……
「あの……ひっ!」
斧を一振り、床に勢いよく叩きつけた事によって途切れる。
目の前に刺さった凶器の鋭さに、彼女の全身から冷や汗がにじみ出る。煌く刃から目を放せずに、麗羽はその場で硬直した。
そんな後ろは気にせず、彼は大仰に手を開いて……嗤う。
「クク……我が“盟友”曹孟徳殿、少しばかり語る時間を頂きたいのだが……如何か?」
しんと静まり返る場で、その声はしっかりと全員の耳に届いた。
「構わない。好きにするがいい」
不敵な笑みを消して、華琳は不思議そうな表情を装い、語りかける。内心では、やはりそう来るかと笑みを深めていたが。
秋斗は目を瞑り、細やかにそよぐ風を受けて心地よさ気に黒髪を揺らす。
松明に照らされるその表情は穏やかで、憎しみに染まった感情など一つとして感じられず、白馬義従達は疑問に眉を寄せ
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