縋るモノに麗しさは無く
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っている刃は自分の方が鋭く、お前さんは他の地の民であろうと切り捨てるだろうに、と。
――なんて……どうせそんな事を考えているんでしょう? 徐晃……いえ、秋斗。
帰って来たら呼んでいいと約束した真名を心の内だけで呼んでみた。互いにこの時の準備で忙しかった為にまだ面と向かい合って呼んではいない。
少しだけ弾む胸は自分に並び立とうとするモノへの期待から、そしてあくまでこちらが上だと示す為の自信から。
「その上で聞こうか……洛陽を救った英雄、“黒麒麟”よ! 友との平穏を引き裂かれし、白馬義従と同じ想いを宿すモノよ! 汝は何を望む!」
凛……と、鈴の音が鳴るような声が良く響いた。
堂々たる姿、遠くとも叩きつけられるその覇気に、彼は僅かに圧され……それでも笑みを崩さない。
――俺からさせろって言ったのにお前さんが先に言うのか。上手く返してみせろってか?
考えていた科白も、華琳が主導権を握る事で台無しにされた。
そちらの思惑だけになどさせてやるか、この場は自分のモノだ、操られてなどやらない……そう主張する彼女にため息を一つ。
皆の視線が集まる中、彼はゆっくりと立ち上がった。斧を肩に担いで、ゆっくりと。
それは良く馴染む斧だった。まるで自分が前から振っていたかのような。
此れで袁家の重鎮全ての頸を落とせば、きっと歓喜が胸に来るだろう。じくじくと苛む憎しみの感情は確かにあるのだから、自分の中に溶け込まされている少女の想いがきっと満たされるに違いない。
そうは思っても秋斗は抑え込む。
――所詮は他人の想いだ。誰かを憎んでようが憎んでなかろうが俺には関係ない。
雛里と再会してより強固になった心の壁が、他者の想いに防壁を作って塞き止めていた。
自分のやりたい事はただ一つ。もう、今の秋斗は……自分が誰かと迷う事も悩む事も無く、今の自分としての願いだけに意識を持って行ける。
演じるのはあの子が愛した黒き大徳。乱世に対して冷たく残酷に、先の平穏の為に善悪の別なく理と矛盾を貫く異端者。
にやりと笑ってぐるりと見回せば、白馬義従の表情には昏い期待が浮かんでいる。袁紹軍の兵士には、緊張と恐れが滲んでいる。
次に真下を見下ろした。
見つめてくる視線が、三つ。
真っ直ぐ純粋な瞳で睨みつけてくる猪々子と、友達が殺される事に恐怖し涙している斗詩。そして……二人が喚かないように抑え付け楽しそうに嗤う明。
は……と不敵な吐息を零して、彼は振り向き、流し目で麗羽を見やった。
合わさる視線には僅かな怯えと諦観。覚悟を決めていたと言ってもやはり彼女も一人の人間。死ぬ事を恐ろしく感じ始めたようだった。
「命が果てるこの時に望む願いはあるか、袁紹?」
誰にも聞こえないよう
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