縋るモノに麗しさは無く
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慄き震えながらも、麗羽はきゅっと唇を引き結び、望みを口に出した。
「わ、わたくしに……腐敗せし袁家を滅ぼした最後の袁家として、生を全うさせてくださいまし……わたくしに生きてと願った、全ての者の為に、これまで殺めた命の為に……」
彼にだけ聞こえるように零された望みは、誰の耳にも届かなかった。
瞳に宿るのは絶望の昏さと、希望の輝き。ただの人形では無い、袁紹でも無い、麗羽個人の想いが、其処にあった。
どうせ死ぬのだろう、という侮蔑の視線が幾多も光る。覇王の提案の恐怖に震えながらも、存在を世界に捧げるなど出来る訳がないと誰しもが思っていた。
「……いいだろう。その為の舞台を用意してやる。泥濘を足掻き、血と臓物の道を這ってでも進んで、世界を変えろ……“袁麗羽”」
彼女が捧げた真名を呼び、口を引き裂いた彼は……すらりと伸ばした長剣を掲げて華琳を真っ直ぐに見据える。
「覇王曹孟徳、そして此処にいる全ての者に提案する! 例え名と字を奪い、世界に真名を開示するという厳罰を受けたとて、このモノが外道に堕ちずに抗わぬとは言い切れん! 故に、此れからこのモノの脚の腱を切断し、あなたの元まで這わせよう! 世界に存在を捧げた者としての姿をこのモノに見せて貰おう! 辿り着いたその時は……“袁麗羽”に罰を受ける意思ありと、この場に居る全ての者が見なすべし!」
彼が麗羽の真名を呼んだ事で空気が変わる。
怒りも屈辱も向けぬ麗羽の表情を見て、麗羽が死を選択しなかったと気付き、驚愕と困惑が広がった。
「我、曹孟徳が受諾する! “袁麗羽”よ! 我が眼前まで辿り着けぬ時は……その頸を“袁紹”のモノとして刎ねてやろう! 辿り着けた時は……世の平穏の為に、己が家の罪過を贖い、公孫賛に断罪されるその時まで、王としての責務を全うする機会を与えてやろう!」
覇気と威圧を孕んだ言葉は彼の耳にはっきりと届く。誰かが声を発する前に、長剣を振り下ろした。
直ぐに紅い血しぶきが、二つ。
「ぎっ……くぅ……ぅ……」
両足の腱を斬られても、麗羽は絶叫を上げなかった。
「……見事だ」
呟いた彼は、息を付かせる暇さえ与えずに彼女の背を蹴り飛ばした。
手首を縛られたまま、脚の腱を斬られてしまっては着地など出来るはずも無く。
彼女は物見台の頂上から、大地に鈍い音を鳴らして激突した。
「白馬義従! 憎しみに染まった白の兵士達よ! 貴様らが“袁紹”の死を望むなら、“袁麗羽”が覇王の元に辿り着くまでに呪い殺してみせよ! 貴様らの想いだけでそいつの心を叩き折れ! 手を出す事を禁ずる! 武器を投げる事も禁ずる! 近付く事も禁ずる! 憎いのなら貴様らの怨嗟でそいつを殺すがいい! 殺せなかったその時は……白馬長史の帰還を待て!
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