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乱世の確率事象改変
縋るモノに麗しさは無く
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と考えて徐晃隊に呼ばせていたのだ。
 対して麗羽を守るモノは誰も居ない。止めようとするはずの斗詩は明に抑え付けられたまま。激発するはずの猪々子は……項垂れたままで何も言わなかった。
 下の様子が分からない麗羽は絶望に堕ちる。
 存在が蹂躙されるような罰を言い渡された事は身が引き裂かれるような恐怖に落としたが、それよりも、二人が何も反論してくれない事が、彼女にとってはより大きな絶望だった。
 絶対に穢される事の無い筈の大切な存在証明を揺るがされて、彼女の思考は乱れて行く。

「あ……あぁ……わ、わたくし、は……」

 何も考えないまま見上げた。何も意味を為さない声を出した。
 目に映るのは黒き大徳。冷たい瞳は同情の欠片も無く、麗羽に対して興味を浮かべてすらいなかった。

「さあ、袁紹。夕が望んだ世界を作りたいのなら縋り付け。袁家の為に死んでいった命に報いたいのなら足掻け。お前に生きて欲しいと願っている奴もいるが……袁紹として死にたければ曹孟徳の手で殺されろ。“お前の友達”と“俺の友達”の甘さに賭けるのなら……縋り付いてでも生きてみせろ。お前の望みは、なんだ?」

 小さな声は彼女にだけ聞こえるようにと紡がれた。

 憎しみで殺された方が幸せなのかもしれない。舌を噛み切って自害した方が楽なのかもしれない。下で彼らに蹂躙されて殺される方が、まだマシなのかもしれない。
 普遍的な死を賜る程度の方が……悪人だとしても通常の人としての死を迎えられるのだから。
 しかし、彼の言葉によって、麗羽は気付いてしまった。

――白蓮さんがわたくしを殺さない可能性は……わたくしが存在を世界に捧げる事で、彼女への贖いとすることで成り立つ、そう言っているのですか、華琳さんとあなたは。
 そして世の平穏の為に汚名悪名を被り、わたくしの全てを捧げて……袁家の為の人形ではなく、世界の為の人形になれと。

 たった一つの命を手放さずに生きるとしても麗羽としての自由は無く、穢れるはずの無い真名さえ世の人々の怨嗟の対象として汚されて、その生に価値はあるか否か。
 麗羽は震える身体を抑え付けて思考を回した。自分に生きて欲しいと願っているモノは誰か。
 一人で投降したあの時の兵士達の表情が思い浮かべられた。斗詩と猪々子も、きっと何も言えないようにされているに違いない。
 そして自分のせいで殺されてしまった王佐は……何を願っていたか。

 思い出すのはあの時の事。連合で彼女の本心を初めて聞いた時の事。

――あの時、夕さんは……臆病なわたくしに真名を捧げてくれた。捧げて願った事は……たった一つ。

 麗羽以外の誰も知らない事。自分よりも先に真名を捧げるという異端を行ったモノが一人居た。彼女が願った事を思い出して、人から外れた二人に恐怖を覚えて
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