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【銀桜】4.スタンド温泉篇
第8話「考えるな、感じろ」
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に返ってくる。
 高杉と同じ道を歩むと決めた時、もう兄と出会うことはないと思っていた。
 なのに、また一緒になれた。
 兄といれば思い出が増えていく。
 鍋の肉をとり合ったり、些細なことで喧嘩をしたり、皆で遠出をしたりと。
 それがどれだけ幸せなことだったか、どれだけ望んでいたことだったか。
 そのはずなのに、あの時差し出された手を離してしまった。
 過去の衝動に押されたとはいえ、離してしまった事実は変わらない。
 それにこうなったのも自業自得。素直に納得できる。
 仙望郷の正体を知っておきながら、それを隠して兄や新八達を巻きこんだ。
 『旅行』というものをただ楽しんでみたかったという、もう一つの理由で。
 けど結局駄目だ。
 あの場には誰一人笑っていなかった。これじゃ意味がない。
 あの血の海で思い知ったはずなのに、同じ事の繰り返しだ。
――本当に自分勝手なことばかりだな。
 だから永遠にこの闇の中を彷徨(さまよ)い続ける。
 それが双葉の運命だ。
 例え、この先現世に戻れる扉があったとしても……

――ああ、わかってるよ。自分から手を離したんだ。
――だからもう、戻れない。

 悠然と浮遊する身体に迫りくるものがある。
 黒く、淀んだ何かが双葉の身体を覆っていく。
 そして少しの時間もかからないうちに、双葉は黄泉の闇に溶けた。

* * *

『あの世とこの世の境』、『異界の深淵』、『黄泉の狭間』。
 いくつもある呼び名はどれも似つかわしい。
 底なしの深淵に広がるのは、完全な『闇』のみ。
 視覚と聴覚と嗅覚、皮膚感覚すらもすっぱりと抜け落ちている。
 まるで夢の中にいるようだ。
 現にこの空間が幻なのか、本物なのかさえ区別がつかない。
 だが詮索する思考すら次第に薄れてゆく。
 考えなくてもいい、と。そんなことをしても無駄だ、と。
 なぜならここは何も存在しない『無』の世界なのだから。


「―――」
「……」
「――ば―」
「……」
「双葉ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

――兄者!?

 完全なる『無』の世界。
 そこに響くのは一つの声。

――どうして……。

 底なしに堕ちた双葉が見上げる先には、絶叫を上げる銀時の姿があった。
 いるはずのない兄の姿を、双葉は口を開けたまま半ば呆然と見ていた。
 一方の銀時は悠然と浮遊する妹の姿を見つけ安堵する反面、別の焦りを感じていた。
 双葉と銀時を阻むようにしてそびえる透明な『壁』。
 それは深淵と狭間をはっきりわけており、兄妹の再会を邪魔していた。
 それでも銀時は『壁』に拳をぶつける。何度も何度も。
 だが幾度衝撃を与えてもびくともしない。『壁』は銀時を嘲笑っているかのようだった。
「双葉
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