第六章
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だが彼はそれでもだ、友人達にこう言うのだった。
「これでもだよ」
「まだなんだな」
「これからだっていうんだな」
「ああ、そうだよ」
まさにその通りだというのだ。
「ホテルもレストランも増やして立派にしていってな」
「人も呼んでか」
「それで宣伝もさらに力を入れて」
「それでだよ」
ようやく、という口調での言葉だった。
「上に行けるんだよ」
「今よりもか」
「ずっとか」
「何度も言うけれどとことんまで力を入れてもな」
あらゆる手段を採っても、というのだ。
「俺達はな」
「ナイティブだから」
「それでか」
「ハンデがあるんだ、そのハンデの分だけやっていくしかないんだ」
「よし、じゃあな」
「今に満足せずに」
「さらにやっていくか」
友人達も応える、ジェロニモが経営しているカジノの事務所の中で。
それでだ、彼等はさらに働きだ。居留地をラスベガスと並ぶカジノのメッカにした。それから数十年経って。
ジェロニモは死の床にあってだ、曾孫達にこう言った。
「ここは最初は何もなかった」
「うん、ひいお祖父ちゃんがカジノを開くまでは」
「何もなかったんだね」
「ただのうらびれた居留地で」
「皆ただそこにいただけだったんだね」
「そうだ、しかし何もなくてもな」
それでも、というのだ。
「そしてわし等でもな」
「ネイティブでもだね」
「その私達でも」
「何とかなるんだ」
そして何かが出来るというのだ。
「わしはそれを見せた、もういい」
「じゃあこれで」
「もう」
「悔いはない」
全く、とだ。ジェロニモは若い時とは違い皺だらけになった顔で述べた。髪の毛もすっかり白くなっている。
「後はだね」
「僕達が」
「もっと賑やかにしろ、もっと上に行くんだ」
曾孫達にこう言うのだった。
「わし等でも出来る、そのことをアメリカ人達に見せてやるんだ」
「他のアメリカ人達に」
「『本来』のアメリカ人達に」
「そうしてやるんだ」
こう言い残してだった、ジェロニモは世を去った。彼はその名に恥じないものを居留地に残したと言われた。カジノ王として居留地を栄えさせた者としてネイティブの誇りとして。
カジノ王 完
2014・11・18
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