13話 「私は拒絶する」
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いた。そして今、裏切られていると感じている。
いつも馬鹿みたいに子供っぽく笑っていて、犬か何かみたいにちょろちょろついてきて、時々大人ぶる少女。いや、本当は彼女は俺なんかよりずっと大人の筈だ。
「私は言えません。でもブラッドさん、私は契約を解約する気はありません」
「隠し事をしていると分かりきった奴をパートナーとしてそのまま迎え入れろと?お前、虫がいいにも程があると思わないのか?」
口調荒く、苛立ちを抑えきれないままにそう返した。
言ってから、自分の感情を思った以上にコントロールしきれていない事に気付いて余計に自分が嫌になる。動揺などしたことがなあったから、抑えるのにどうすればいいのかも分からない。まるで子供の癇癪のようだ。
カナリアを見ると、彼女はそんなみっともない俺を前に顔を小さく伏せてきつく手を握りしめていた。
「……思ってますよ、自分でも虫がいいって。とても不条理で、ブラッドさんにとって理不尽を感じるでしょう。でも、私はブラッドさんの下を去る訳にはいかないし、ブラッドさんがいなくなってしまうのを指をくわえて見ている訳にもいかないんです……!」
次にその顔を見た時、俺は大きな自己嫌悪を覚えた。
カナリアの顔はせめぎ合う感情で氾濫し、今にも涙の堰が決壊しそうなほどに揺れていた。
彼女自身、今のこの状況をどうすればいいのか分からない。他に何かいい方法があればいいのにと女神に祈りたいほどに切に思い悩み、答えが出なかったような――苦悩に満ちた顔だったから。
この目を、俺は一度見たことがある気がした。あれは確か、コンビを組むきっかけになったあの日に見た――
「………ッ!!」
思わず、自分の頭を一発殴る。自分だけが思い悩んでいる訳でもないのに浅はかだった。
俺には俺にしか解らない感情があるように、彼女にも彼女にしか解らないものがある。
時間だ。今はともかく、自分を落ち着かせる時間が欲しかった。
「………少し外で頭を冷やしてくる。むきになって済まなかった」
「私も……ハッキリしない事ばかりで、ごめんなさい。少し考えを整理します」
俯くカナリアに何か声をかけようと手を伸ばそうとし、止めた。
彼女のこんな姿を前にも見た。そしてその時、彼女は自分で決断を下した。伸ばした手はそれを邪魔してしまうような気がして、俺はそのまま部屋を後にした。
= =
去っていくブラッドを見送った後、カナリアは自分の顔を覆って呻いた。
「馬鹿だ、私。前にもこんな事考えてブラッドさんを困らせて、今回も同じことしてる」
彼に真実を告げれば、彼はもしかしたらマーセナリーを辞めるかもしれない。
私は今、彼に辞めてもらっては困るのだ。私の浅ましく個人的な――
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