第五章
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「駄目でしょ」
「本当に色気がないな」
「色気がなくて上等よ」
「そんなのだと正典に振られるぞ」
「あいつもここ生まれのここ育ちじゃない」
葛飾、下町の。
「だから一緒よ」
「まるで女版寅さんか両さんだな」
「そう思うなら思うでいいわ。これでも彼氏いるし」
正典のことだ、あいつに他ならない。
「困ってないわよ」
「やれやれね、この娘は」
母もそんな私に苦笑いだった。
「色気の欠片もないんだから」
「いいのよ、私は私だから」
「そういう問題じゃないでしょ」
「私がいいっていうからいいの。それじゃあね」
私はソースをかけたコロッケで御飯を一杯食べた。それで母にお茶碗を差し出してそのうえでこう言った。
「おかわりね」
「山盛りね」
「そう、いつも通りね」
こう言ってまた食べるのだった、いつも通りの晩御飯だった。
御飯の後でお風呂に入って少しだけ勉強して寝てだった。
翌朝もだった、早く起きて。
御飯を食べて部活に向かう、そこで母が私にふとこう言ってきた。
「あれっ、シャンプー替えたの?」
「わかる?」
「香りが違うからね」
それでわかったとだ、私に言ってきた。
「やっぱりそうなのね」
「新しいシャンプー出たからね」
「試してみたのね」
「そう、どうかしら」
「いい香りね」
私ににこりと笑って言ってくれた。
「それじゃあ暫くは」
「このシャンプーでいくわ」
こう母に答えた。
「なくなるまでね」
「そうなのね、あんたもね」
「私も?」
「女の子らしいところあるじゃない」
くすりとした感じの笑顔でこう私に言ってきた。
「案外」
「案外って」
「お洒落とは無縁って思ったいたけれど」
「何言ってるのよ、そんなの当然でしょ」
「女の子って言うのね」
「そうよ、当たり前じゃない」
母に口を尖らせて抗議した。
「これでも毎日お風呂に入って下着も凝ってるんだから」
「そういえばそうね」
「確かに生まれも育ちも下町だけれど」
それでもだった、ずっとこの葛飾にいても。
「女の子だから」
「それでっていうとね」
「そう、こうしたことにも気を使ってるから」
「成程ね」
「それじゃあ今からね」
私から母に言う。
「学校行って来るから」
「正典君と一緒によね」
「ええ、朝からデートだから」
「そこも女の子ね」
「そうよ、れっきとしたね」
こう言ってだ、私は朝のデートに向かった。そうして正典と一緒にそのデートを楽しんだ。それが私の女の子らしさだと周りにこっそりと心の中で言いながら。
ダウンタンすと〜り〜 完
2014・5・29
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