赤い夢
第四話
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……
にわかに、扉の前の通路からハイヒールの鳴らす、心地よい音色が聞こえてきた。
そうして、部屋の前で音は止み…。
「…お久ぶりですね、凍夜」
木製のやおら豪勢な造りの扉が開き、一人の女性が姿を現した。
白衣に特徴的なラピスラズリの瞳。腰程までに伸びた銀の髪。
落ち着いた物腰のトーンのその声の主こそ、今回凍夜が待っていた人物だ。
「…久しぶりだなシャル。また痩せたんじゃないか?」
俺は久しぶりに会った女性に、そう告げる。
おそらくは、ちゃんと食事も睡眠もとってないのだろう。
「……ちゃんと毎日三食食べてるのか?」
「…ああっ、今日はまだ食事を摂ってなかったですね」
今思い出したかの様に、彼女は胸ポケットから一粒の錠剤、タブレットを口に含む。
これが、忙しい時の彼女の一回分の食事だろう。
そんな彼女に、少しばかり心配になる。
そんな心配も気にせずに、優雅な動作で、彼女は俺の向かいのソファーに腰掛ける。
「…それで、今日は件の?」
「……ああ、そうだ。お前に息子を看て貰おうと思ってな。」
時夜が倒れてから、二日が経過した。
一般の医師が下した過労からくる高熱、昏倒。
信頼していない訳ではないが、信頼の置ける人物に看て貰うのは用心深い俺の性だろう。
それと、親心故か。
「…そういえば凍夜、アールグレイには手を付けないのですか?」
ふと、シャルニーニがそう問い掛けて来た。テーブルに置かれたカップ。
それを目線で促す彼女。凍夜はやおら丁重に断った。
「……ああ、前にお前から出されたお茶と茶菓子に薬物が混入されていたからな」
「あら、よく覚えていましたね!」
心底驚いた様な大仰な仕草をするシャルニーニ。
「…あぁ、やっぱりか。」
…やっぱり、こいつ油断ならないわ。
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―――その始まりは、いつで、どこで、どのように始まったのだろう。
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