陽だまりの日々
第一話
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押し潰されそうで。
嫌悪感が、罪悪感が、俺の奥底から込み上げてくる。
けれど、それらを理解した上で俺はこの道を選んだ。
“諧調”の。ヴィクトリアの担い手となった。
『主様、大丈夫ですか?』
『時夜、大丈夫?』
「……ああ、大丈夫だよ」
……嘘だ。
自分でも感じつつ、俺は二人の心配の色を宿した声に我ながら弱々しく微笑む。
……俺は弱い。
割り切れればいいのだろうけど、俺はまだ命を奪うという重みに対して、割り切る事が出来ない。
簡単に割り切れれば、それは何処か、人としての心を見失う様な気がして。
「………っ」
今もこの手に、脳裏にこびり付いている。
震える様に俺は自身の手を見る。…錯覚か、我が手が血に染まっている様に見える。
今日までに“時切”を手にして、彼女達を切り裂いた、肉を切る感触。
彼女達が上げる、苦悶に満ちた声。その断末魔が、耳に残って離れない。
心が、まるで重力に引かれる様に押しつぶされそうになる。
けど、それらも受け止めて生きていかなければ俺は強くなる事は出来ない。
俺は、もう失う事を良しとしない。それは彼女の墓標に誓った事だ。
……強く、強くならなければいけないのだ。
「―――時夜」
聞き慣れた、俺にとって安堵をもたらす女性の声が聞こえてきた。
視線を足元から声の方に向けると、緋袴を纏った女性がそこには立っていた。
気付けば、何時の間にか俺は出雲の大社の元まで戻ってきていた。
「……お母さん」
今の俺は酷く、情けない顔をしているのだろう。
そんな顔を母親に見せたくなくて、俺は再び、顔を俯けた。
次の瞬間、何か柔らかいものが俺を包み込んだ。
「……お母さん、どうしたの?」
気付いた時にはお母さんに、俺は抱き締められていた。
「…泣きたいのなら、堪えないで、泣いてもいいのですよ?」
優しく諭される様に語り掛けられて、その言葉で、俺の中の何かが決壊した。
無意識の内に、涙が頬を伝い流れて行く。
「…うっ……うぁ」
涙は止めようと思っているのに、崩壊したダムの様に流れ出る。
俺は、お母さんの身体を縋る様に、抱き締める。
「今は泣きなさい、時夜。そして泣いたその分、涙を流した分だけ、強くなりなさい」
お母さんは俺を優しく包み込んで、抱擁する。
……今は泣こう、そしてその分だけ、強くなろう。
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