それは世界の狭間にて
流転する少年と百億の時を廻る少女
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は今年初の大豪雨を記録した。
そして、その勢いは今もなお、衰える気配を見せていなかった。
……ぴちゃ
夜の帳が降りた薄暗いアスファルトの地面に、小さな、小さな波紋が生まれた。
―――桜色のセーラー服を着こなした少女。
緋色の長い髪に、同じく緋色の瞳。悪魔的な美貌の少女。
雨風が少女の衣服を浸食、その細やかながら肉付きの良い上背が顕になっている。
ただ濡れる事にも臆する事無く、その場に大樹の様にそびえ立ち、じっと空を見据えていた。
「……雨、ですか」
少女は今気付いたかの様に、そう呟いた。
長い、本当に長い時間の間、思考の海に沈み込んでいた。
「……あれから、もう二ヶ月も経つんですね」
悲愁に満ちた瞳と声音で、緋色の少女は呟いた。
この世界を揺るがす程の大惨事。それが起こってからそれだけの時間が経過していた。
一歩間違えていれば、この世界は消失していたかもしれない。
本来ならば手を取り合わない管理神たるエト・カ・リファと協力して、私は一つの祈りを想った。
そして、この世界を救済に導いた一人の少年と、それに追随した彼の仲間達。
その活躍がなければ、この世界はきっと今頃虚無へと還っていた。
けれど与えられた時間は少ない。少年達が自らの命を犠牲にして切り開いたというのに。
与えられた猶予は刻一刻と今も迫っている。幻聴の様に秒針を刻む音が聞こえてくる。
少女にとっての思い人、その人はとある存在との相対の後に消失した。
世界の傷は癒えたとしても、人々の心に残った傷を癒すのにはまだ時間が掛かる。
「…ここにいたのね、■□」
「……□■さん」
背後へと振り返る。
そこにいたのは、艶やかな黒髪を靡かせた同い年の少女。
傘を差した少女は、もう一本の傘を私に私に差して持たせる。
「…何を考えていたの?落ち込んでいる様に見えたけれど」
「その様に見えますか?」
……表情に出していたつもりはなかったのですが。
少女はまるで水鏡の様に、此方の逡巡さえも解っているかの様に告げる。
「…これからすべき事。今、少しだけ迷っています」
曇天に満ちた天頂を見据えながら、そう独白の様に言葉にする。
隣に立つ少女は、それに黙って耳を傾ける。
「…本当に私はそれを選択していいのだろうか。今更になって、私はそんな事で悩んでしまうのです」
これから成す事。その代償は、罪過は私一人では背負い切れるものではない。
不相応である事は理解している。“楽園幻想”その犠牲による事も。
この世界の総てが犠牲になる未来が待っている事を、私が一番理解している。
…何故、今になって躊躇ってしまうのだろう。
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