第三十八話 もう一つの古都その六
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「そう教えてもらったよ」
「そうなのね」
「何が何でも、他人を踏み付けて振り捨てて汚いことを尽くして生きるのは駄目でもな」
「命は大切にしろってことよね」
「お師匠さんにはそう言われたんだよ」
「ううん、奇麗に執着しろなのね」
裕香は薊が彼女の師匠に教えてもらったというその言葉を自分でも言ってみた。
「深い言葉ね」
「だよな、命を粗末にしても駄目だけれどな」
「エゴ剥き出しで生きることも」
「駄目だってな」
「そうした生き方する人もいるからね」
「いるよな、自分のことだけ考えてな」
「本当に汚いことしてしか生きられない人って」
「そういう奴をな」
薊はその目に嫌悪を宿らせて言った。
「餓鬼っていうんだろうな」
「そのこともなのね」
「お師匠さんに言われたよ」
「餓鬼ね」
「生きながら餓鬼道に堕ちるっていうのはな」
それこそ、というのだ。
「そうした連中のことを言うんだろうな」
「餓鬼ね」
「餓鬼になるのは地獄に堕ちるより悪いかも知れないとも言われたよ」
「そうかもね、餓鬼はね」
寺の娘の向日葵がここでこう言って来た。
「餓えて。それでいて満たされなくて」
「浅ましくてな」
「だから餓鬼はね」
「地獄より悪いか」
薊も餓鬼について考える顔で述べた。
「餓鬼になるってのは」
「地獄にも餓鬼いるっていうお話もあるけれど」
「餓鬼道ってのはその地獄より酷いかも知れないんだな」
「まだ地獄の亡者の方がましかも知れないわよ」
「そんなのにはなりたくないな」
薊は真剣に言った。
「あたしも」
「そうよね、私もよ」
「全くだな」
「ううん、そういえば餓鬼って」
菊がここで言うことはというと。
「仏像に踏まれてたかな、いやあれは」
「四天王や明王が踏み付けてるのよね」
向日葵は菊に対しても言った。
「あれはまた違うわよ」
「何なの?あれは」
「悪鬼とかそういうものよ」
「また違うものなのね」
「そう、鬼は鬼でもね」
「餓鬼と悪鬼はまた違うのね」
「そうなの、その四天王の像は東大寺にもあるから」
これから一行が行くその東大寺にもというのだ。
「あそこは大仏さんだけじゃないから」
「あの大仏さんだけでも相当だけれど」
菖蒲も東大寺の代名詞と言っていいその大仏のことに言及した。この仏像が世界的なものであるだけにだ。
「四天王も」
「そう、いるから」
「凄い力がありそうね」
「そもそもあの大仏さんが国家安泰、守護のものだし」
聖武帝がそれを願われ建立されたのがはじまりである。
「とはいっても二回焼けてるけれどね」
「平清盛さんと松永久秀さんにですね」
桜が言って来た。
「そうでしたね」
「そうなの、教科書にも出て来るお話だけれど」
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