第三十八話 もう一つの古都その五
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「あの時はね」
「あの時は仕方ないだろうな」
「ええ、それでも今はね」
「そうしたことをする人もいなくて」
「そもそも神様の使いだから」
「馬鹿なことしたら神罰当たるな」
これが仏教ならば仏罰になる、日本は神も仏もいるのでどちらの罰が当たっても不思議ではない国でもある。
「それこそ」
「ええ、だから普通は下手なことはしないし」
鹿達に対してだ。
「そのこともあってね」
「こんなに偉そうなんだな」
「そうなの」
実際に、というのである。
「けれど確かにお猿さんみたいなことはないわね」
「その分だけましじゃね?」
「ううん、そうなのかしら」
「確かに物凄く偉そうな連中だけれどな」
まさに奈良市を自分達のものであるという顔で薊達の前で平然と立って座っている。その様子は家の中で甘やかされて育った猫そのままだ。
「本当に猿よりずっといいよ」
「薊ちゃんお猿さん嫌いなの」
「あまり好きじゃないな」
眉を顰めさせ首を右に傾げさせての言葉だ。
「そう言われると」
「そうなのね」
「その日光の連中見てな」
「好きじゃなくなったのね」
「それにあたし子供の頃猿って言われてたんだよ」
仇名としてはよくあるものの一つだ、クラスに一人はそうした仇名で呼ばれる子がいるが薊もそうだったのだ。
「そのこともあってさ」
「好きじゃないのね」
「そうなんだよ」
それで、というのだ。
「猿は」
「薊ちゃんがお猿さんって言われてたなんて」
「予想外かい?」
「ううん、あまりそんな感じじゃないけれど」
「小柄で髪の毛が短くてさ、しかもすばしっこいからってさ」
そうした要素が重なってだったというのだ。
「猿って言われてたんだよ。しかも毛が赤くて赤自体が好きな色だからさ」
「赤猿とか?」
「言われてたよ、尻が赤いとかも言われたよ」
「そこまで言うと」
「女の子への言葉じゃねえよな」
「男の子が言ってたのね」
「学校とか孤児院のな」
薊は裕香にこのことも笑って話した。
「それでその度に喧嘩になったよ」
「喧嘩は」
「軽い喧嘩だよ、子供の」
その程度のものだったというのだ。
「それでも一度も負けてないよ」
「喧嘩で勝ってもね」
「まあな、どうってことはないよ」
勝っても、というのだ。
「負けたら駄目なことは他に幾らでもあるしな」
「何かとね」
「怪人連中との戦いだってさ」
薊の目が真剣なものになった、他の少女達のものもここで。
「負けたら駄目だからな」
「負けたらその時はね」
「連中との戦いは生きるか死ぬかだからな」
まさにだ、そうした戦いだからだというのだ。
「負けたら駄目なんだよ」
「生きる為に」
「生きることには奇麗に執着しろってな」
「その言葉
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