第三十八話 もう一つの古都その二
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「奈良市の商店街も立派ですね」
「そうでしょ、それで商店街から少し離れたらね」
「どうなっているのでしょうか」
「これがまた面白いのよ。和風のお家やお店が一杯あって」
「和風の、ですか」
「そう、料亭とかもあってね」
日本の趣がある場所も存在しているというのだ、奈良市には。
「そこを歩くのも面白いのよ」
「何かそうした場所で食べることも」
菫が裕香のその言葉に応えた。
「面白いわね」
「ええ、実際に面白いわよ」
「そうよね」
「まあ私達は夜は旅館で食べてね」
「お昼は」
「その辺りで食べるけれど」
「奈良の名物って何だったっけ」
薊は両手を自分の頭の後ろで組んで歩きつつ裕香に顔を向けて問うた。鞄は右肩にかけてある。
「食いもので」
「それがね」
その話になるとだ、裕香は苦笑いになって言った。
「柿が有名だけれど」
「柿は秋だろ」
「西瓜が有名なのよ」
「西瓜か、じゃあそれ食うかい?」
「けれどね。お料理はね」
そちらの話になるとだとだ、裕香は困った笑顔になるのだった。
「あまりね」
「ないのかよ」
「他の場所とはそこが違うのよ」
関西の、というのだ。
「一応柿の葉寿司があるけれど。あとお素麺」
「充分じゃね?その二つあったら」
「そうかしら」
「特にお素麺いいだろ」
薊は素麺と聞いてそれで裕香に言った。
「丁渡夏だしさ」
「そう?奈良県って美味しいものないのよ」
「いや、あるじゃねえか」
また言う薊だった。
「その素麺がさ」
「薊ちゃんお素麺好き?」
「夏は素麺だろ」
丁渡今は夏だ、だから余計に言うのである。
「やっぱり」
「そうなるかしら」
「それに西瓜もだろ」
薊はその目を輝かせてさえいた。
「もう最高じゃねえか」
「だといいけれど」
「ああ、楽しみだよ」
実際にこうも言うのだった。
「お昼がさ」
「ううん、奈良って本当に食べものはないけれど」
「地元にいたらわからないものよ」
その裕香にだ、菖蒲が言う。七人で横一列になって歩いていて右端から中央にいる裕香に対して言ったのである。
「そうしたことは」
「そうなの」
「裕香さんお素麺は」
「夏はいつもだったわ」
非常によく食べていたとだ、裕香は菖蒲の問いに答えた。
「もうお昼はね」
「三輪素麺ね」
「そうそう、夏のお昼はそれでおやつは西瓜」
裕香はさらに言った。
「秋は柿、お土産は柿の葉寿司よ」
「そうしていつも食べていると」
「何とも思わなくなるのね」
「そうしたものだから」
だからだというのだ。
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