黒への一線.3
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.3
誰しもがその事実を信じられずにいた。
いや、それは言い出した平泉もそうだろう。
オルホは入手こそ困難ではないが、その界隈でオルホを取り扱っている店もない。
しかし、それは決定的な確信にはならない。
だからこそ、一度呼び出すことをしたのだ。
その月曜の食卓の時間、賢太郎は平泉に聞いた。
「俺たちが行っている正義と、これから対峙する相手…一体何が違うんですかね?」
賢太郎が複雑な顔をして言うと、いつにもなく深刻な顔で平泉は返した。
「確かに、端から見ればやっていることは変わりません。それは言い逃れはできません。…ですが賢太郎くん、私たちの『仕事』を行う相手は1つだけ、必ず共通点があります。」
「悪事を働いてる…ですか?」
「いいえ、違います。…人には踏み外してはいけない『人の道』というものがあります。ですがその道は細く狭く、一歩も踏み外さずに歩くのは困難なことなのかもしれません。しかし、本当に越えてはいけないのは、人の道の境界線ではありません。その先にある、『黒への一線』です。」
「黒への…一線?」
平泉のその言葉に、不思議と賢太郎は興味が湧いていた。
「そう、黒への一線です。何にも染まらず、真っ白い人生を送っている人はいないでしょう。生きている限り、様々なものに晒され影響され生きていますから。確かに先程言ったように、悪事を働いて人の道を踏み外すことをする人はいます。ですが、その先の黒への一線を越えたら、もう二度と人の道へは引き返せません。それは、例え復讐であっても同じです。例え相手がどんな極悪人でも、その手段で黒への一線を越えればもう二度と戻れないんです。だからこそ、私たちの『仕事』の相手は、その越えてはいけない一線を越えたもの。且つ、他に一線を越えるものを出させないため。その為に、私たちは働くんです。」
平泉の言葉に、賢太郎はただただ黙って耳を傾けた。
しかし、その心の底には複雑な気持ちが混在していた。
悪に対する怒りの気持ちと、古田に対する信頼の気持ち。
きっと、誰もが口にはしないが自分と同じ気持ちであろう。
賢太郎はその気持ちを押し殺して、水曜の定休日を待った。
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