第4部 誓約の水精霊
第6章 アンドバリの指輪
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けているのは、薄い肌着のみである。
女王になってから使い始めた、亡き父王の居室であった。
巨大な天蓋つきのベッドの隣には、父が愛用していたテーブルがあった。
すっと手を伸ばして、ワインの瓶を取った。
杯に注いで、一気に飲み干した。
女王になってから量が増えてきている。
決断を求められるというものは、かなりの心労だった。
今は戦時中。
その重圧をアンリエッタは未だ扱い兼ねていた。
頬を桃色に染めたアンリエッタは、天蓋を見つめた。
酔うと決まって思い出すのは……、楽しかった日々だ。
輝いていた自分。
ほんのわずかの、生きていると実感できていたあの頃。
十四歳の夏の、短い時間。
一度でいいから聞きたかった言葉……。
「どうしてあなたはあのときおっしゃってくれなかったの?」
顔を手で隠し、アンリエッタは問うた。
しかし、その答えを言ってくれる人物はもういない。
この世のどこにもいない。
勝利が悲しみを癒すかもしれないと思った。
女王の激務が、忘れさせてくれるかもと考えた。
しかし、忘れられない。
華やかな勝利も、賞賛の言葉も、聖女と自分を敬愛する民の連呼も……、たった一つの言葉にはかなわない。
涙がついっと流れた。
いやだわ、と思う。
明日の朝も早い。
ゲルマニアの大使との折衝が控えている。
涙を拭う。
そして、再びワインの杯に手を伸ばそうとした時……。
扉がノックされた。
こんな夜更けに誰だろう?
「誰?名乗りなさい」
「ぼくだ」
その言葉を耳にした瞬間、アンリエッタの顔から表情が消えた。
「嘘…」
そう呟いて、胸に手をやった。
しかし、激しい動機が収まらない。
「僕だよ。ウェールズだ」
アンリエッタは扉へと駆け寄った。
「ウェールズ様?嘘。あなたはワルドの手に掛ったんじゃ……」
震える声でそう口にした。
「それは間違えだ。こうして僕は、生きている」
「ど、どうして?」
「死んだのは僕の影武者さ」
アンリエッタは扉を開け放った。
何度も夢で見た笑顔が、そこに立っていた。
「おお、ウェールズ様……、よくぞご無事で……」
その先は言葉にならない。
アンリエッタはしっかりとウェールズを抱きしめた。
匂いを嗅ぐ。
それは間違いなく、ウェールズの匂いであった。
アンリエッタの脳裏にいくつもの、甘い記憶が蘇る。
そのために、アンリエッタは己にかけられた眠りの魔法に気が付かなかった。
幸せな気分のまま、アンリエッタは眠りの世界へと落ちて行った。
さ
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