暁 〜小説投稿サイト〜
魔法科高校の神童生
Episode35:立ち込めしは暗雲
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漆黒の凶器を向ける存在を、隼人は知っていた。
 緑がかった綺麗な銀髪に、年相応の華奢な身体、吊り目がちで強い意思が宿っているはずの青い瞳は、しかし今はどうしようもない程の憎悪と殺意で濁ってしまっていた。

「……エリナ、か」

 誰にも聞こえはしない声量で、隼人は呟いた。
 昨日の夜から行方不明になっているエリナが、今自分の前に明確な殺意を持って立っている。
 予想をしていない訳ではなかった。隼人が暗殺者というモノに身を窶してからそれなりの年月が経っている。その過程で、エリナに関係のある人物を殺害している可能性もゼロではないのだから。

 しかし予想していたとはいえ、ショックを受けないのとは別の話である。なまじ、自分の所業を知ってもついてきてくれる家族以外の唯一の存在だったため、それを失った喪失感は予想より大きい。

「…拳銃は厄介だけど、それもファランクスの前では無意味。彼女は即無力化できるでしょう。とはいえ、貴方の力はまだ計れていない。ここは、撤退させてもらおうか」

 だがその動揺を面に出すことはない。仮面の奥の表情ですら凍り付かせ、暗殺者はその身を空へ躍らせるべく窓の縁へ足を掛けた。

「だが覚えていろ。貴方達は、必ず殺す」

 撃ち出される銃弾の悉くをファランクスで防ぎ、そして隼人はその場を後にした。

「ク、ク…まだまだ、俺の、魔法も、鈍っては、いなかったよう、だな」

 暗殺者の去った部屋の中。腰を抜かし放心状態の男達を気にもせず、紫道は喉を鳴らす。

「なぁ…エリナ。我が、愛しき傀儡よ」

「ーーー」

 紫道の指がエリナの顎を這い、その頤を上げる。
 それでも彼女の瞳は焦点を結ばず、握った拳銃の銃口は力無く地面を向く。

「ククク……」

 これで準備は整った。後は、あの方の仰せの通り、九十九の始末をするだけ。そうすれば、この国を、いや、この世界を闇が覆う日がぐっと近づく。

「クハハハ…」

 せめて最後の時まで足掻くがいいと、狂人は笑うのだった。



☆★☆★



「ーーーっ」

 ホテルに帰ってきて、俺は精神的疲労を感じてベッドへ倒れ込んだ。
 まあ、それも仕方のないことだろう。俺自身が意識していない内に、俺の中で『エリナ』という存在がいつの間にか大きくなっていたのだ。だからこそ俺は、エリナが刃を向けて来た時、殺すことを躊躇った。

 微弱ながらエリナから感じた殺気は紛れもなく本物であった。
 なにがあったのかは分からないが、彼女が俺を殺そうとしてきたのは間違いない。このままならば、いずれ俺とエリナは決着をつけることになるだろう。

 唯一の希望は、『殺意』を感じ取れなかったことか。
 いや、エリナからは意志そのものが感じられ
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