神の世界.2
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木曜日、賢太郎はいつものように出勤をした。
珍しく、藤田が一番に来て店の前に立っていた。まだ昼の1時を回ったばかりと言ったところ。
大抵、いつも早く来るのはプロンジュールの六郎か、シェフの平泉、或いは自分であったからだ。
珍しい、どうしたんだろう?
と思いながらも、賢太郎は挨拶をした。
「おはようございます。あの、中には入りないんですか?」
賢太郎がそう聞くと、藤田は厳かな表情で答えた。
「えぇ、私は鍵を持っていませんから…」
賢太郎は不思議に思った。
なら、何故一番に来たのだろう?
暫くして、平泉がやって来た。
鍵を持った平泉が扉の鍵を開けると、藤田は中に入って準備をし始めた。
何かいつもと違い落ち着かない様子を見せる藤田が、賢太郎は気になった。
賢太郎は気になって、平泉に聞いてみた。
「あの、今日って特別なお客さんは見えますかね?」
「いえ、特にそんなご予定はありませんが。」
「そうですか…」
益々、藤田の行動に引っ掛かる賢太郎。
「賢太郎くん、何か気になることでもありましたか?」
いつもの調子で、平泉はニコッと笑って賢太郎に問いかけた。
賢太郎は、藤田のことを話してみた。
「そうですか…藤田さんが一番に来るなんて確かに珍しいことですね。少し気に掛けてみましょう。」
平泉はそう言うと、店の奥の書斎に入っていった。
店の奥には、あらゆる資料が詰まっている。
賢太郎は入ったことはないが、何度か資料が持ち出されてくるところを見たことはある。
どれも「仕事」に関する資料だと思った。
平泉には気になるところがあった。
藤田はそこまで落ち着かなくなることは、滅多にないことだからだ。
藤田が落ち着かない理由は、殺人を目撃したからではない。
確かに、常人ならそこで落ち着かなくなるだろうが、むしろその落ち着きが仇となったのかもしれない。
現場から犯人が逃走し、その場には警察官と藤田と遺体が1つ。
当然事情を聞かれることとなるのだが、その際に藤田は自分の前科によって疑いをかけられ
長い間、疑念の眼差しを浴び同じ質問を何度も聞かれたからだ。
結局、半日近く事情聴取を受けて昨日解放されて、さすがの藤田も当然落ち着きようがなく、
家にいてもやることがないので早く店に来たのだ。
だがこの時、まだ誰も知る由はなかった。
この事件が今後大きくこの店に関わることを。そして何より自分たちを待ち受ける運命を。
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