第6話 胸糞悪い現実と夢
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パチン!
「えっ」
その手を乱暴に払われて、謙信様は驚きの声を上げる。
女の子は声を上げて、首を振って謙信様を拒絶していた。しんと、静まりかえす。
周囲の人々も顔に浮かぶのは恐怖の色だけのように思われた。
「っ! 謙信様!」
カシャン……。
謙信様の手から刀が落ちた。
ふらり……と謙信様は怪しい足取りで歩みだした。
「謙信様!」
ふらふらと歩く謙信様に、周囲の人は1歩2歩と下がり、謙信様の進む方向にぽっかりと道ができた。
「謙信様っ!」
刀を拾い上げて謙信様を追う。その後、謙信様の支えとなりながら城に戻ると、何事かと驚いた弥太郎殿たちに事情を説明した。
胸糞悪い事件から数時間後、俺は再び城下に来て労働していた。
「さてと、死体処理とか何年振りかね……。つーかさ、なんで俺が残業しなきゃなんないわけ? 残業代は出ないし」
今日、床に就こうと思ったら、重臣がやってきて……。
「お前今日ちょっと残業な?」
「……いいですよ」
俺は残業代が出ると思って快く引き受けた。しかし、笑顔満開の俺に重臣は……。
「あーそれと言い忘れてたけど、残業代はでないぞ」
「は…………?」
という訳である。
昔、山で力尽きたもの処理するのを思い出しながら転がっている死体を片付ける。ばっちぃ……。
別に自分の血を処理するのは一向に構わんが、他人の血を処理するとかどんな罰ゲームだよ。
こうやって考えると、医者ってすげえな。
後始末が済むと、城に戻り、俺はそそくさと床に就いた。
真っ暗闇……。ただそれだけ。
何も見えない。何も感じられない。辺りを見回しながら歩くと、少し強い風が吹いた。
風が吹くと、目の前には青い着物を着た女性が現れる。上杉軍に属している者なら見間違う筈がない。
あれは謙信様だ……。しかし、どこか悲しそうに立ち尽くしている。そして、謙信様は歩きだし、暗闇を進んでいく。
「っ!」
何故か、あのまま先に行かせると2度と謙信さんは戻ってこない気がした。俺は急いで後を追うが、足は沼に嵌ったように上手く動かない。声を出して謙信様を呼び止めようにも、俺の口から声は出てくれない。必死に手を伸ばすが、届くはずもない。俺は、そのまま暗い地面の底へ沈んでいった。
「うおっ!」
「はっ……はっ……」
胸糞悪い夢を見た。そして、この夢はこれから起こる事を予期するかのように感じた。
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