第6話 胸糞悪い現実と夢
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「何がだ?」
「いえ、町へと誘ってくださるのは嬉しいのですが――景勝様と一緒にあいさつ回りをした方が良かったのでは?」
景勝様は謙信様の遠い親戚で、つい先日謙信様の養子となり次代の上杉家を率いる方だ。
彼は口数がとても少なく、何を考えているのかが全く分からない。彼は猿を飼っていてその猿がとても元気で景勝様の代わりともいうべきか、問いに対する受け答えなどをしている。しかも、猿の名前が「サル」なので初対面の人は絶対に困るだろう。ソースは俺だ。
「いや……それでは親馬鹿呼ばわりされるだろう。景勝は人付き合いが苦手そうだし、今から鍛えておかないと」
「はあ……」
人付き合い以前に――あの、底知れぬ無口さの方が、大きな問題とならないだろうか?
噂では彼が率いる部隊は皆、無駄口をたたかず黙々と仕事を果たすとか……。
しゃべってないと集中できない俺とは絶対に馬が合わないだろう。
「颯馬、それほど景勝の事が気がかりであるなら、城に戻って景勝について回るか? 私は別に1人でも出かけてもいいのだが」
ご機嫌斜めになってしまった。別に謙信様なら1人でも何が起こってもどうとでもなるだろうが、1人で行かせたら行かせたらで俺が兼続にどやされてしまう。あいつ、無駄に説教が長いので聞いているこっちとしてはあれだ。その、精神的にくる。
「あ、いえ! 俺は謙信様の家臣ですし、ぜひともお供させてください!(兼続にどやされるのは御免だ)」
「それでいい。景勝は次代を担う者だ。面倒を見るのはまた、同じように若い世代が良い」
その若さで言っても説得力がない件について。はっきり言って景勝様より謙信様の方が若く見える。てか、実際若いんじゃないの? 女性に年を聞くのはアレなので聞かないが。なんだかんだで俺も年上の扱いなんだ……。これでも大体18か19くらいだと思っているが……。(願望)
余裕でお兄さんで通用すると思うんだけどな……。
「もたもたするな。行くぞ颯馬」
「は、はい!」
「あ、御実城様。丁度良かった。少し話が――」
町に入って間もなく、顔見知りの薬売りが謙信様に声を掛けた。薬売りの真剣な表情に、謙信様が顔を引き締めた時――
「きゃあああぁぁっ!!」
あーあ。出ましたよ。なんか起こりましたよ。面倒くさい。女性が悲鳴を上げる典型的な例だ。何故、いつから女性の悲鳴が上がれば事件に発展するという流れになったのだ?
絹を引くような悲鳴が上がり、謙信様は「話は後だ!」と言い置いて声の方へ駆けだした。
「謙信様!! 置いてかないで!! ちょ、足速っ!?」
「何事だ!」
既に人だかりができており、その向こうから聞こえる謙信様の鋭い声がして、俺は急いで人混みをかき分けながら進む。
痛っ! 足踏むな! ひい!
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