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アセイミナイフ -びっくり!転生したら私の奥義は乗用車!?-
第19話「Uへの道/奥義と恐怖と謎の男」
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寝こける二人を避難させる父親と少女を横目に増え続けるりんごを見つめながら、

オークの僧侶と貴族の拳士は深く深くため息を付く。

…この場所に、街道から外れたこの草原のど真ん中に、

時ならずたくさんの林檎の木が生えていることが話題になるのは

それから数年後のことである。



―――その頃。

「ウグォォォォ…」

…緑銀の体毛を持つ巨熊は、己を押しつぶし燃え盛っていた鋼の猛獣を

押し返そうと躍起になっていた。

炎は今は消え、何度も爆発したのであろう、全身はガソリンの燃焼により焼け焦げて、

酸素も不足していたのであろう。その息吹は鈍い。

…驚くべきかな。乗用車の無制動衝突による衝撃も、ガソリンの燃焼による熱傷、

そして炎がもたらす酸欠からも、この怪物は生き残っていた。

恐るべき生命力である。苦しげに、なお復讐を誓う呻きを上げながら、

獣はもがき続けていた。

「―――やはり侮れぬな」

…それを見下ろす男が一人。目深にフードを被った酷く疲れた風の男だった。

「間一髪、か。意識をこやつから離さねば、私が…ショック死、だったか。

死ぬことになっていた。やはり、侮れぬ…」

ぶるり、とその腕が震える。

「…まさか、臭水…それも、あのように錬成されたものが潜むとは。

あの方々の言っていたことには…」

男はそこまで言って息を吐く。長い長い息を吐く。

「―――この戦車の一撃で、死んでいてもおかしくなかった、と思えば安いか」

ひとりごちると、巨熊に向けて手に持っていた大仰な形式の杖を向けた。

「…ふん。まあ、上出来だ。私は死なず、彼女も死なず。彼女は十分…」

冷たい目でミスリルベアーであることをもう少しでやめてしまう

焼け焦げた獣の肢体を睨めつけた。

その瞳には、巨熊の姿は写っていない。その向こうに何かを見据えていた。

「…全ては権能たる王たちのために。彼女が僭主ではなく新たな王となるかを」

暗く歪んだ笑いを含んだ声。

「彼女がDominaであるか、Dynamisであるか。それを見届けよう。

…Aπ?κ?λυψι? の日まで」

言い終えると、その杖からマーチの爆発にも劣らぬであろう火球が生まれる。

『腐れよ、病え、葬れや、怨めよ、魔を呼ばん』

火球が呪の如き祝詞と共に野に放たれ、その炎は巨熊を包み、そして消える。

―――ボン。

酷く小さな音がして、そして地面が一瞬爆ぜる。

…後には、何も残ってはいなかった。

焼けたのでもなく、熱のために消滅したのでもなく、ミスリルベアーであることを

辞める前にそれは『消失』した。

それを満足気に見つめる
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