29:涙の意味
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仮眠と言う名の熟睡に浸ってしまっていたあたしが次に目を覚ましたのは、監視当番の交代の時間にセットしたタイマーが頭の中で鳴り響くよりも随分と前の事だった。
あたしの腕の中でくるまって眠っていたはずのピナが突然、寝袋から這い出て、どこかへと飛び立とうとしていたからだ。
「ピナ……どうしたの?」
眠い目を擦りながら、辺りの皆を起こしてしまわないように声をかける。が、ピナは言う事を聞かず翼を羽ばたかせた。そして数メートル上空に飛び立ち、くるくると辺りを見回しては何かを探しているかのようだった。
気付けば、この安全地帯にあたし達以外に起きている人は居なかった。さらにはどういう訳か、監視役の二人すらもどこにも居ない。
現在、誰が監視の担当なのかは分からないが、今は二人で近くの見回りに出ているのだろうか。などと考えを巡らせていると……
ピナは見回していた首を一方向に停止させたかと思えば、その方向へと一直線に飛び出していった。
「ピナッ? ま、待ってよっ」
きゅるるっ。
あたしの命令に顔だけこちらを向きつつも、直進を止めることは無かった。それどころか、向かいたいところがあるからついてきて欲しい、と言っている様だった。あたしはそれに小さく嘆息し、一度気を引き締めてから寝袋から這い出て、腰の短剣の柄に手を置きつつ安全地帯を抜け出し、ピナが突き進む茂みの中へと駆け出した。
◆
ピナには高い索敵能力があるので、不意にモンスターに襲われる心配こそ無いのだが……突然起きだしたかと思えば、あたしの命令をも背いて飛び足していくという珍事の理由は、皆目見当が付かなかった。
しかしそれは安全地帯からそう離れていない、少し駆け進んだところで徐々に明らかになっていった。
木や茂みを避けながらピナを追っている内に、あたしの耳に不思議な音が舞い込んできたのだ。思わず走る足を緩め、雑踏の音を無くさせて耳を澄ませる。
――高く澄み渡った、滑らかな旋律。
「…………歌?」
それは、明らかに人の声の歌だった。
どうやらピナは、その歌の音源へと向かっているようだった。
しかしこの声は……聞き覚えがあった。しかし、それは聞き慣れた友人のアスナ達の声とは違う。必然的に、候補は残りの一人へと絞られた。
そう、普段のどこか不機嫌そうな時とは似ても似つかないけれど……
このトーンは、ユミルの声に間違いなかった。
キリトから今朝、あのユミルが小川で歌を口ずさんでいたとは小耳に挟んでいたが、どうやら本当の事だったようだ。
あたしはやや距離が離れてしまったピナを追いつつも、物音を極力たてないようにハイディングを駆使して慎重に森を進んでいった。
◆
その途中でピナ
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