29:涙の意味
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揺らぐことはなかった。
「……あたし、前にユミルさんに言いましたよね。あなたを変えてみせる……って。あの時は正直、半分は勢いでしたけど……今なら心の底から言えます。……あたしは、あなたが隠そうとするあなたを、本当のユミルさんだと信じています。だから、それがいつも表に出るように、あたしはあなたを……――変えてみせます」
「……〜〜ッッ!!」
――その時、視界がぐるりと急変した。
ユミルがあたしの両肩を掴み、その場に押し倒したのだ。驚いたピナが空高く飛ぶ。
「ッ……!」
あたしは切り株から草の地面に背中から落ち、一瞬息が詰まる。
「……これでもっ、ボクが信じれるって言うの!?」
気付けば、ユミルは仰向けに倒れるあたしの上に馬乗りになり、右手で逆手に持つ投擲ナイフをあたしの首元に突きつけていた。左手であたしの右手を地面に押さえつけている。
見上げれてみれば、月の逆光と顔を覆う綺麗な金髪のせいで薄暗くなった、ユミルの歯を食いしばる顔がすぐそばにあった。
「もしボクが死神だったらっ、今からシリカは首を掻っ切られて殺されるんだよっ、死ぬんだよっ!? 怖くないのっ!? ねぇっ!?」
間近で大声が張られる。
……だが、それでもあたしの心はとても落ち着いていた。
あたしは、子をあやすように、トーンを落とした声で囁いた。
「……はい、怖くありません。――あたしはユミルさんを、信じていますから」
再びそう言って、あたしは目を閉じた。体の力も抜き、されるがままになってみせる。あたかも、ピナが彼に抱かれ、安心しきった時のように。
その時。
――ぽたり。
と、あたしの頬に、なにか温かいものが落ちた。再びゆっくりと目を開ける。
すると、ユミルの目が潤んでおり、薄暗い彼の顔で唯一、きらきらと煌めくアクセントとなっていた。
「……っ、……うっ……」
「ユミルさん……泣いてるんですか……?」
「泣いてないっ!!」
そう叫んでまた一粒、あたしの頬にそれが落ちる。
今度こそ間違うようもない、ユミルの涙だった。
「なんなんだよっ、この涙はっ……!? なんで、止まんないんだよっ……! なんでっ……――っ!?」
途端にユミルは言葉を途切れせ、目を見開いた。
空を飛んでいたピナが、あたしに傍らに着地して長い首を伸ばし……涙に濡れるユミルの頬を小さな舌で舐めていたのだ。
すると、ユミルの右手からナイフが零れ落ち、あたしの右手を掴む手からフッと力が抜けた。
「――なんでっ……キミ達はそんなに…………ボクなんかに、優しいんだよっ……」
ついに彼は顔を伏せ、あたしの胸元で嗚咽の声を上げて啜り泣きを始めた。
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