29:涙の意味
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頷かれる。
「ボクの家は、ペットサロンを営んでた。お客さんのペットをグルーミングしたり、シャンプーしたりしてケアするお店。だけど、こういう経営はさ、アットホームな近所付き合いができるものなんだ。だからそれが興じて、両親はお得意さん達からの強い要望で、お客さんからペットを預かるサービスも始めたんだ。……それからは、ペットサロンっていう名前のペットホテルになっちゃってる」
あたしは隣でクスクス笑ってしまう。
今の彼の自然な語り口は、素直に話に入り込める不思議な魅力があった。
「ペットを預かるようになってからは、家族揃って動物好きの性格に火が付いちゃったみたいでさ。家中や裏庭までペットホテル用に改装して……何匹もの犬や猫、鳥から魚まで……色んなペットを預かったりケアしたよ。ボクも一緒にお手伝いして、たくさんの動物と触れ合ってきた。だからかな……ピナに好かれちゃうのは。ピナも、どこかウチのお得意様が預けてくる猫に似てたし。特に、甘えてきて……ああでもして機嫌をとらないと離れてくれないところは瓜二つだよ、まったく……」
ここでなぜかピナがきゅいーっ、と得意げな声を上げ、それにますます可笑しさが込み上げてくる。
「あははっ、そうだったんですか。……えと、あの……よかったら、さっき口ずさんでいた歌の事も、訊いていいですか?」
あたしはすっかりユミルの語りに夢中になってしまい、マナー違反だと知りつつも、調子に乗ってさらに尋ねてしまう。
「え、ああ……聴いて、たんだ……」
するとユミルは顔を伏せ、複雑そうな顔で少し頬を赤くした。
「……お母さんの趣味だったんだ。もうそっちを仕事にしていいんじゃないかってくらい、すごく……上手だった。ボクも小さい頃から一緒に歌うのが好きだったけど、未だにお母さん程には上達できないでいるよ」
「うっすら歌声を聴きましたけど……そんなことなかったですよ?」
決してお世辞ではない。今思い返しても、あたしなんかよりも断然うまかった。耳が肥えているとは言えないけれど、あれはとても素直な歌声で……歌で生活をしている人達と比べても遜色のない程に思えた。
その言葉にユミルはまた少し頬を赤くする。
「……やめてよ。お母さんのほうがずっと上手いんだ。作詞も作曲も適いっこなかった。それでもお母さんは……一緒に歌ってくれると、すごく喜んでくれたけ、ど……っ……」
この世界ではまず話すことのない現実の話に、ユミルはまた感傷を抱き始めたようだった。涙を堪えようとする節が見られた。
「ユミルさん……お母さんのこと、大好きなんですね」
あたしがそっとそう言うと、ユミルは図星だったとばかりに顔をガバッとあげた。
「わ、悪いっ!? ボクだって、お母さんに会いたいっ
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