29:涙の意味
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返ってくる。
「……優しいね……ありがと。……あぁ……嬉しいなぁ……」
やや聞き取りづらい、少し嗚咽を堪える小声を最後に、顔を羽毛に埋めたっきりの沈黙が続く。
……………。
――カサリ。
あたしはこの場で覗き見している事に、なんだか申し訳なくなってきて……立ち上がり、茂みから進み出た。そのままユミルの傍へと歩み寄る。
ピナはあたしに気付き、首だけこちらに捻ってきゅる、と小さく鳴いた。
しかしユミルは、そのまま全く動かなかった。
そんな彼に、あたしはそっと声を掛けた。
「……ユミルさん」
「ッ!?」
「きゃっ……」
あたしはキリトから彼が《聴音》を使えること知らされており、とっくに彼はあたしが茂みから出てきた時点で存在に気付いていたものかと思っていたが……どうやら、図らずも不意を付いてしまったらしい。彼はたった今、あたしに気付いたらしかった。
ユミルは驚きにガバッと顔をあげ、反射的に左手で腰の投擲ナイフに手を伸ばしていた。
その顔には……
「……シ、シリカ?」
「……はい。……あの、その顔……」
「…………っ!」
ユミルは慌てて頬を手の甲で拭い始めた。
……流れる涙を。
さっき、あたしを見上げたユミルは……泣いていた。
……彼はずっと、ピナの胸の中で、涙を流していたようだった。
それを完全に拭いきったユミルは、こちらに顔を背けて尋ねてきた。
「ど、どうしてここにっ……?」
「あたしはその子を追ってきただけです。安心してください。……それより、一人なんですか? 見回りのもう一人は……?」
あたしは周りの森を見渡すが、人の影もモンスターの気配も無い。
「もう一人はリズベッ……リズだよ。……あの人、自分はしばらく反対側の森と安全地帯を交互を見回るから、こっちはよろしくってボクを一人にしてさ。ボクを一人にしていいのかと指摘したら……あんたは悪い子じゃない、信じてる……って。まったく……ホントに勝手な人だよ」
その話にあたしはクスクス笑ってしまう。その時のニッと笑うリズベットの顔が目に浮かぶ。
「ともかく、この子……返すね。……ホラ、飼い主さんが来たんだから、もう戻りな」
ユミルはピナを胸から離して抱き上げようとした。だが、
「……ん、どうしたの」
ピナは小さな前足をユミルの胸のアーマーの縁に引っ掛け、ぐいぐいと離れようとしなかった。ユミルを見上げ、物欲しそうな瞳を注いでいる。
この仕草は……
「離れるのを惜しんでいるようですね。あたしは、別にそのまま抱いたままでも構いませんよ?」
ユミルは一瞬だけ逡巡したが、すぐに首を振った。
「……ううん、いい。ピ
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