暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン リング・オブ・ハート
29:涙の意味
[2/9]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
を見失ってしまったが、焦ることなくあたしは歌声のほうへと歩を進める。
 すると、程なくピナの目立つ水色の小さな体が、茂み越しの小さな隙間からチラチラ覗いているのを発見して、一安心する。

 ピナは主であるあたしを差し置いて、能天気にユミルの頭上をくるくる旋回しているようだった。……胸の中でちょっとだけジェラシーが沸いたが、すぐにそっと蓋をする。どうやら、この茂みのすぐ先に、ユミルが居るようだ。
 と……ここで、ずっと耳に聞こえていた心地いい旋律がピタリと途絶えた。
 一瞬、もうバレてしまったのかと思い、慌てて身を(かが)めたが……
 続けて聞こえてきたのは、

「――あはははっ、そんなに引っ付かれちゃ、歌えないよー」

 という、ユミルの……()()()()笑い声だった。
 いつもとは雰囲気のまるで違う……本当に楽しそうで、心優しそうな、ごく普通の子供のような声。
 あたしは茂みを盾に歩み寄り、その隙間の先を凝視した。

 茂みの先のユミルは切り株に腰掛けており、ピナは彼の肩に足を降ろしてじゃれるように首に巻きついていた。それにくすぐったそうに少し身をよじっているユミルの体はこちらから背を向けており、表情はあまり伺えなかった。けど、今の彼はどんな顔をしているかは手に取るように伝わってくる。

「キミ、ボクの声を聞いてここまで飛んできたの? こっそり歌ってたつもりだったのに、キミも、すごく耳がいいんだね。 ……ってことは、キミはボクのコンサートの初めてのお客さん、ってことになるのかな。参ったなぁ……ボク、歌は得意じゃないんだけどな……」

 困った風なユミルは、頬に擦り寄っているらしいピナの頭を撫でてやっているようだった。

「歌はね、お母さんの方が、ずっと上手くて……さ……」

 しかし、『お母さん』という単語を口にした途端……

「作詞や、作曲だって……お母さんの方が上手でね……――お母さんは……お母さんはねっ……」

 ユミルの声は急速に湿り気を帯びていった。
 そのまま黙ったかと思えば……
 肩に乗るピナを、いつもあたしがやっているように胸に抱きかかえた。ピナは相変わらず、安心しきってされるがままなっていた。

「…………キミの羽毛、すごく柔らかいね……。少し、借りてもいい……?」

 その言葉の後……ユミルは、

 ――ピナを軽く抱きしめて、胸の羽毛の中に、そっとその顔を埋めた。

「…………あぁ……」

 吐露の吐息と共にそのまま体の力を抜いて、小さなピナに体を委ねる。
 すると……ピナは翼を広げて、そっと彼の頭を覆って包んだ。

「キミ……もしかして、(なぐさ)めて、くれてるの……?」

 その呟きに、きゅる、と小竜の小さな返答が
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ