歌劇――あるいは破滅への神話
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階段の上、誰もいない空間に呼びかけた。
「誰なのよ!」
階段を駆け上がる。二階の廊下を半周し、三階へと至る階段に足をかける。
「ねえ、あなたは役者なの? あなたはいるの?」
三階へ。
「教えてくれたっていいじゃない!」
ウラルタは癇癪を起こした。
「いつだってあなたは確かな事は何も教えてくれない!」
でも、『あなた』、それは誰なのだろう。
かつてウラルタの名で手紙を寄越し、ネメスへと自分を導いた誰か。影達の世界に、実体ある者として自分を落とした誰か。
その誰か、または何かからは、悪意さえも感じる事はできない。ウラルタはしゃがみこみ、いつもの癖で髪を掴んで引っ張った。どうすればいいかわからなかった。
何かを求めているのなら教えてほしかった。
ゆっくりと顔を上げた。すぐ横に重厚な扉があった。三階席への入り口だろうと思われた。
何故劇場に呼ばれたかわからない。ただ、その役目が観客なら客席を見つけなければならず、役者なら、舞台を見つけなければならない。
何の手がかりもなく出来るだろうか、そのような事が?
「運命を教えて」
ウラルタは祈りをこめて扉を押す。
眼前を女が横切った。占星符の巫女だ。背中が遠ざかる。行く先に光が差した。
光が聖堂を照らした。ポスターに描かれていた聖堂と同じ場所だった。廊下の両側の円柱。遙か高いアーチ型の天井へと立ちのぼる苦痛の呻き。赤い絨毯は流れ出た血によって濃淡がつけられている。
傷ついた兵士達が壁や柱に凭れて座りこみ、床には生死すら定かではない格好で横たわっている。巫女は廊下の奥に向かう。ウラルタも幻の中に入りこみ、ついて行った。
廊下の先の十字路で、あの青年が、兵士を腕に抱いて傷をさすっていた。その横顔は悲痛と憂いに満ち、白い衣は血と肉片と抜け落ちた髪で汚れていた。
「何用か」
青年は顔を上げて巫女に問うた。
「女人、何故斯様な場所へと来られたか」
「翼神トゥロスの懐へ至る道を探しております」星占は澄んだ声で答えた。「死せる者のさだめ。私は探し出さねばなりません」
「おお、我らは我らの神ルフマンに至る道さえ見失った」
横たわる兵士が答えた。青年が彼に目を向ける。兵士は床に手をつき、傷ついた体を起こした。
「我らが慈悲深きルフマン、恵みの神よ、何故汝は我らからお隠れになられた――」
「まだ動いてはならぬ」
「尊きルフマンの御子よ、死者の国への入り口では、自らの神への道がおのずと耀うて見えるという。我らはその全き道を踏み外し、死者の国においても果てなき苦痛と戦とあてどなき彷徨を定めづけられた」
「それは我らの落ち度ではない」
慰めるように御子は言った。
「死者の国の入り口へと立ち返ることが叶えば、道を見出せるやも知れ
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