ターン18 冥府の姫と純白の龍
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、確かにあの二人が親子であることがよくわかるように彼女には見えた。もっとも、本人たちは否定するだろうから心の中にとどめるだけにしておくが。
だが、それが表情に少し出ていたらしい。やや訝しげな顔をする堂に対してなんでもない、という風に笑いかけ、彼女もティーカップの液体を口に運ぶ。これまで清明の淹れる紅茶を幾度も飲んできてそれなりに舌の肥えてきた彼女ですら味わったことのない芳醇な味が口の中に広がり、思わず目を丸くした。これまで飲んできた紅茶と何も変わらない種類なのに、淹れ方が違うとここまで味に差が出るものだろうか。聞いているかもしれない清明に気を使って口にはしないが、少なくとも紅茶に関しては清明はまだまだ父親を抜くことはできないだろうとひそかに確信する。
「あの、この紅茶って」
「ああ、これか?ふふふ、コイツは妻に教わった秘伝の技だからな、アイツが知らなくても無理はねえだろう」
「え?どうしてですか、だって。清明のお母さんって………」
引っかかる言い方に疑問をぶつけてみると、堂はなんだあの息子彼女に向かってそんなことも言ってないのか、と若干顔を歪ませる。
「アイツが生まれてすぐにいなくなっちまったよ。交通事故でな、いい女だったよ」
「あ………ごめんなさい、なんだって」
「おいおい、嬢ちゃんが謝ることはないだろ?悪いのは親の話を高校でまるっきりしなかったあの親不孝もんのほうだってーの。どうせあの馬鹿息子のことだ、黙ってりゃばれないとでも」
「でも、それは違うと思います、だって」
彼女にしては珍しく、人が喋ってる間に割り込んでまで声を上げる。その懸命な様子に思うところがあったのか、堂はそれ以上何も言わずに夢想の次の言葉を待つ。
「多分清明は、私たちに同情してほしくなかったんだと思います、って。私が清明と初めて会ってからまだ1年しか経ってませんけど、清明がそんな正確なのは十分以上に知ってます。いつだって誰かに同情されないように、誰にも気を使わせないように自分が一番気を使って、苦しいことだって最後の最後まで一人で抱え込んで解決のめどがつくまで私たちには何も言わないし、それに、それに」
「わかったわかった。それぐらいにしときな、嬢ちゃん。でないとアイツにも聞こえっちまう」
「でも」
「それにな、俺だってそんなことは気づいてるさ。なにせアイツの親を一人で10年以上やってきてんだからな。絶っっ対アイツの前では言わんけど、アイツは俺みたいなやつから生まれたとは思えないぐらいいい息子さ。どれ、そろそろ味見にでも行ってやるかね。すまないが嬢ちゃん、少しの間店番頼まれてくれ。紅茶の代金がわりってことで、な」
「………はい!」
それからしばらくの間、誰ひとりやってこない店内で大人しくしている夢想。
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