ターン18 冥府の姫と純白の龍
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に、こんな僕一人の個人的な理由で貴重な旅行の時間を無駄にさせたくない。決して豪華とは言えないまでも大切に扱われてることがよくわかる仏壇の前に正座で座り込み、線香を1本取り出して半分の長さに折ってからマッチで火をつける。軽く手であおいで白い煙が薄く出るようにすると、それをすっと差し込んだ。そのまま静かに手を合わせる。
「ふー……なんで起こしてくんないのさ」
『起こせるわけないだろう』
気づかないうちに、仏壇の前で眠りこけていたらしい。気づかないうちに疲れてたのか、それとも中の人に天国から呼ばれてたのか。個人的には後者の方が好きだな、そのほうがロマンチックじゃないの。
「ほーう、今あの馬鹿たれはそんなことやってんのか。ったく、お前はまだ商売するほどの腕じゃねぇだろってのは釘刺しといたはずなんだけどな」
「で、でも清明も頑張ってるんですよ、って」
「邪魔したねー………って。なんでいるの夢想!?」
店に戻ると、なぜかうちの親父と夢想が紅茶とケーキで優雅なティータイムを送ってた。どうなってんのこれ、と思う間もなく親父のどら声が狭い店内に響き渡る。
「ちょっと店の前に戻ってきたらこの人に話しかけられて………」
「おう、こっちの嬢ちゃんから全部聞かせてもらったぜ。こんの親不孝もんが、なぁに親にも黙って勝手に支店出してやがる!『YOU KNOW』はうちの店名だろうがこのアホ!」
「うっ!?そこなんでばらしちゃうのさ、夢想」
「あー、まずかったみたいだね………ごめんね清明、だってさ」
そう、実は僕の店の店名はうちの実家、親父のケーキ屋のものをまるっと拝借したものだったのだ。他の名前を付けたほうがいいのは重々承知だったけど、それでもこの名前以外はどうしてもつける気になれなかったのだ。
「ハー………悪かったよ、親父」
「ったく、それで?」
「え?」
「ちったぁマトモなもん作れるようにはなってんだろうな。冷蔵庫にスポンジの余りがあるから、今すぐ一品作ってみろ」
もっと雷を落としてくるかと思ったけど、意外にも静かな親父の声。当然、受けて立つ以外の選択肢はない。
「少々お待ちを。去年の僕と一緒にしてもらっちゃ困るね」
清明が厨房の方に引っ込んでから、彼の父親………遊野堂は自身の目の前のティーカップを取り、中身の紅茶を一息で飲み干した。先ほどとはうってかわって穏やかな調子で、やや緊張気味の夢想に話しかける。
「さて、と。見苦しいとこ見せちまってすまんね、お嬢ちゃん」
「いえいえとんでもない、だって。むしろ私こそ久しぶりに親子が会うのに邪魔しちゃって申し訳ありません、って」
恐縮しながら謝る夢想を手で押しとめる仕草はどことなく清明と似ており
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