71章 グレン・グールドに傾倒する松下陽斗
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樹ちゃん」
リビングのテーブルで、美樹と陽斗は、あたたかい緑茶を飲みながら、
目を見合わせて、幸福そうにわらった。
・・・はるくんの指って、ごつごつして男らしいのに、なぜか、ピアニストらしくって、
わたしの指より、繊細な感じなんだから。また、そこがセクシーで、わたし好きなのだけど・・・
美樹は、そう思いながら、テーブルに置かれた、陽斗の手を、一瞬見つめた。
このごろ、20世紀最高の天才ピアニストとして名高い、グレン・グールドに心酔している。
1932年9月25日、カナダのトロントに生れた、グレン・グールドは、23歳の時に、
ニューヨークで録音した初のデビューアルバムの、バッハの 『 ゴールドベルク変奏曲 』 が
1956年に発表されると、ルイ・アームストロングの新譜をおさえて、チャート1位を獲得したである。
このアルバムは、ハロルド・C・ショーンバーグなどの著名な批評家からも絶賛されて、
ザ・ニューヨーカー誌といった一流雑誌も、次々と賞賛した。
マス・メディアは、アイドルのように、グールドを喧伝し、彼は時の人となった。
日本でも、グールドの革新性を、最も早く見抜いた、音楽評論家、吉田秀和は、
グールドこのデヴューアルバムについて、こんなことを語っている。
「こんなに詩的で、ポエティックな演奏で・・・、しかも、バッハのあの曲は、ほんとうに、
冴え冴え(さえざえ)とした、鮮明な、ぼんやりとしたところのない音楽、
それなのに、こんなにほかにないような、魅力のある、
聴いている人をね、ほんとうに引き付ける力が強い、そういう音楽にぶつかったという、
そういう意味ですね、びっくりしたのは。だから、かつて聴いたことのないようなものでした。
で、ぼくたちが、経験してきたバッハは、重々しくて、厳粛で、言ってみれば、バロックどころか、
その前のゴシックの音楽みたいな、石でつくられた立派な大伽藍のような、
そういう音楽でしたからねぇ。そうじゃなくて、春の風が吹いているみたいなところがあったり、
まあ、言葉でいうと、そんなあれだけども、鳥が鳴いているようなところがあったり、
そんな愉快なものを持っているような、バッハですからね。」
つまり、グールドは、そんなふうな瑞々(みずみず)しい、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ像を、
現代人の前に蘇らせたのである。
天才バッハを、蘇らせた、天才とピアニストとでもいうのであろうか。
グールドは、その圧倒的なスピード感と、抒情性のあるピアノ演奏で、重々しく、親しみにくいような、
バッハのイメージを一変させたといえるかもしれない。
18世紀なかばに、バッハによって作
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