彼女の為に、彼の為に
[16/18]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
手な押し付け、それでも……もうこんな地獄は奪って変えてやると、殺し殺された誰もに約束する為にあの言葉を紡ぎ続けた。
「どれだけ……あの人が世界を変えたかったか、分かりますか?」
震える掌をぎゅうと握りしめて、彼は唇を噛みしめた。
秋斗だけが分かる戦う理由。どうして其処まで……狂っていったのか、秋斗は正しく理解出来た。
救いたいのに救えない。助けたいと思っても幾多も手から零れ落ちて行く命、それが哀しくて哀しくて……しかし味方を一人でも多く救えているのが嬉しくて嬉しくて……人の生き死にを割り切れないまま、壊れる程に追い詰められていった。
――ああ……だから俺は黒麒麟になれない……。
敵は殺すモノ、世界を変える為に。
乖離したような自分の心は悲哀を伝える……けれども彼自身は敵の生き死にには拘れない。作り物のような、傍観者のような感覚で理不尽を行う彼では、違うのだ。
故に、徐晃隊は彼に……ほとんど同じだが違うと言った。
彼らは気付けた。戦場で常に背中を追い掛けてきた為に、その差異は小さく見えて大きかった。
それでも、と思う。
秋斗は演じる道を選んだ。だから引くことは無く、膝をつく事もしない。自責の海に沈む事も無ければ、多くの誰かの為に狂う事もしない。
小さいけれど大きな差異に気付けるのは彼らと雛里くらいなのだ。それなら……やはり大嘘つきになるだけ。
彼の中で、黒麒麟のパズルは完成した。意思に反して湧き立つ自己乖離の感情も理解出来た。
それはまるで一枚の絵を眺めるように……秋斗は心の中を観測し、読み取るしか出来なかった。
「……教えてくれてありがと。俺は道化師だから、黒麒麟の本当の気持ちは分かったつもりにしかなれないなぁ」
ぐるりと一巡、彼は死の山を見渡した。
醜悪な現実にじくじくと苛む真黒い感情の渦。
自分が作り上げた地獄を見つめて、秋斗は笑い、せめてと望む。
「誰の想いも繋いじゃいなかったんだ……俺は。これからでも……遅くないかな?」
とてとてと駆けてくる足音と、きゅっと握ってくれる小さな手があった。分かっていますと、そう言うように。
「あなたが平穏な世を望んで戦う限り。
あの人が戻るまでの間……いえ、戻ってからもずっと、優しい皆さんと一緒に想いの華を繋ぎましょう」
この場所でなら、それが出来るから。
秋斗と想いを同じくする華琳の元で、屍を階として天に上る覇王の元でこそ……その在り方を共有できる。
夜天の元、秋斗は静かに目を閉じた。
背中には生きているモノ達の声が聴こえている。目の前には自分が作り上げた地獄が静かに横たわっている。
生死のハザマで、約束を一つ。
自分が作り上げたい平穏な世に……黒麒麟が望んで、
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ