彼女の為に、彼の為に
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故に、彼が背負うべき命は……敵味方問わず、失われた全て。
ゆっくり、ゆっくりと彼は死体の山を見渡した。ついこの間まで見てきたはずなのに、自分でも作り出したのに……全く違うモノに感じていた。
「あなたは味方の死だけに心を痛めるのでしょう。でも、秋斗さんは違います。誰かを殺すのが嫌で嫌で、誰かを死なせるのが嫌で嫌で……それでも地獄を私と共に作り出してきました。そういうモノだと割り切れば楽になるのに、割り切る事さえ出来ないままで」
血の匂い。臓物の香り。赤い液体やてらてらと光る肉片。目には生気の欠片も無い。怨みや悲哀、絶望に歪む表情が多すぎる。醜悪な死が、ただそこに、ゴミのように積まれていた。
「それが例え賊徒であろうとも、彼は誰よりも敵の事を想っていました。一人でも多く、敵味方問わず命を繋がせたい人でした。そうした二律背反の矛盾を背負って、彼は戦場で感情を殺しきる術を身に付けたんです……最効率の戦場を生み出す化け物部隊を作り上げたのは、自分の願望を叶えつつ、自分の弱さを抑え込む為でしたから」
今の彼が思い出すのは、夕を救い出す為に駆け抜けた戦場。
何故、自分があの時、歓喜と悲哀に呑み込まれたか……その答えが此処にあった。
心が疼いた。どろどろと湧き出すタールのような粘り気のある感情が広がって行く。
頭が痛かった。思い出すなというように、痛みが彼の思考の邪魔をする。
誰かが責める“うそつき”の言葉。黒麒麟を潰した自責による白昼夢の声が、彼の頭に僅かに響いた。
嗚呼、と吐息を吐き出す。この手で殺した感触が甦り、掌を見ると血まみれにしか見えなかった。
自分の罪過を自覚する。奪った命は戻らない。“自分が敵の側に着く事を選んでいたなら救えた命”は、自身の選択一つで失われてしまった。
彼は未来を知るモノ。運命を捻じ曲げられるモノ。
誰かの未来に介入出来るペテン師で……誰かの未来を切り捨てる大嘘つき。
故に黒麒麟の想いには敵味方の区別なく、せめて選択肢の終着で、乱世の果てに生き残らせる人々の為に戦うしか残されていなかった。
「敵味方、全ての生きたかったという想いを連れて行く。乱世に咲く想いの華を平穏な世に繋げよう……それが彼の始まりです」
二つの言葉が耳に響く。
自分は片方だけ紡いでいたあの言葉。その片方でさえ、今の秋斗が紡ぐには足りえないモノ。
戦う理由を、想いを乗せて、黒麒麟はあの言葉を紡いでいたのだから。
「“乱世に華を、世に平穏を”……どれだけの想いがこの言葉に込められ、繋がれて来たか……分かりますか?」
名前も知らない一人の敵兵であっても、黒麒麟は救えなくて悲しんだ。自分の手で殺して、必ず平穏な世を作るからとあの言葉に想いを乗せてきた。
自分勝
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