彼女の為に、彼の為に
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†
闇が彩る夜天の下、秋斗と雛里は二人で手を繋ぎ、とある場所まで脚を運んでいた。
戦が終わった後であっても多くの兵士達が働くその場所は、ゆらゆらと揺らめく篝火に照らされて薄明るく、されども明るい空気など欠片も発されない。
行かなければならない所がある、と雛里が彼に伝えた事によって来ているのだが、理由はまだ教えて貰えず。
泣き止んだ雛里と交わした言葉は少ない。
記憶を失ってからずっと傍に居ればよかった……とは彼女も言わなかった。過去の後悔を求めるより、彼女は未来を選んだのだ。
秋斗もそれを分かっているから何も聞かず、手を引かれたまま、彼女が連れて行ってくれる場所を黙って目指した。
星が煌く空は美しい。ゆっくりと見上げて語らう事は、きっと楽しい時間になるだろう。
しかしながら、漸く着いた“其処”は……楽しさなど欠片も介入出来ない場所であった。
異臭立ち込めるその場所には……戦によって死んだ者達を積み上げた屍の山があったのだ。
息を呑む。死者のあまりの多さに。口と鼻を塞ごうとも脳髄に達する死の匂いに。これだけ人のカタチをしたモノがあるというのに、誰も動かないその事実に。
繋いでいた手を離して、とてとてと雛里が駆けて行く。丁度休憩時に入ったのか、兵士達はその場所を離れて行きながら不思議そうに見やるも何も言わなかった。
二つに括った蒼い髪が揺れる。大仰に手を広げて振り向き、彼女は手を巻いて……まるで道化師のような礼を一つ。
「……徐晃さん。黒麒麟を演じるあなたに、“彼”の事を話しましょう」
何もこんな場所でなくとも、とは言えなかった。
どうしてこの場所に連れて来たのか分からなくて、茫然と見つめるだけであった。
「私とあなたがさっきまで居た場所は、“秋斗さん”がいつも戦の終わりに行っていた場所です。どうしてか、分かりますか?」
質問を向けられ思考に潜る。
されども彼には分からない。戦場を見ても何も感情が動かない彼では、決して分かり得ない。
予想通り、というように雛里は苦笑を零した。昔は自分が教えられた。しかし今は彼に自分が教えようとしている……それが哀しくて、寂しかった。
死体の山の方に片手を広げた彼女は、彼に向けて笑みを向けながら、優しい声を流した。
「これが……私達の作った地獄です。生きていた人も、生きたかった人も、大切なモノがあった人も、譲れないモノがあった人も、欲深かった人も……等しく変わらず、私達が描く未来の為に奪い尽くし、地獄をこの世に作りました」
語る少女の言葉に、彼の頭がズキリと痛んだ。
現実として殺した命は、直接手を下さずとも彼の目的の為に死んでいる。この戦は彼と覇王の思惑が一致した戦い。
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