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猫の憂鬱
第3章
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久し振りにゆっくり休めるなと、帰宅した龍太郎はタブの中で大きく息を吸った。青山涼子が発見され一週間、休みが無かった。刑事になった時其れは覚悟したが、前の休日から計算すると十日振りの休み、特に趣味も持たない龍太郎に休みは正直要らないが、頭を整理するには要る。肉体の休息は要らないが、脳の休息は絶対に要った。
井上は今頃、酒と女を楽しんで居るだろう。休日前夜の井上は朝四時迄飲んでおり、昼過ぎに其の時引っ掛けた女と一緒に目を覚ます。そして其処から夕方迄飲み、夜又寝る、という何とも不健康な生活をする。
本人が其れで良いなら良いが。
欠伸をした龍太郎は風呂から上がり、冷蔵庫から水を取ると、バスローブ姿の儘寝室のパソコンの前に座った。コピー用紙に今迄の事を纏め、プリントアウトした物全てをファイルに入れた。其れを三十分程眺めた。読み終わると前にある棚に滑らせた。
此の棚には龍太郎が担当した事件のファイルが入る。
龍太郎の楽しみと云ったら、此れ等を読み返す事。暗いと云ったら暗いが、知的と言い直せば悪く無い。
「んー、ソマリ。」
ギィ…と背凭れを軋ませた龍太郎は天井を仰ぎ、声を漏らした。
趣味も無い、結婚は疎か恋人も居ない、酒も飲まず、女とも遊ばなければ、ギャンブルもしない、御前一体人生何が楽しいの?と龍太郎自身偶に思う。
本当に、俺は何で生きてるんだろう。
普段はそんな事思わない。帰宅し、食事をし、風呂に入って寝るだけで終わるが、翌日が休みの日はこういった考えを持つ。
そして、何時もの考えになる。
俺は死体と同じじゃないか。彼奴等は何も考えない、俺も考えない。何が違う。息をするかしないか、心臓が動いているか否かで、決まってる。心臓が停まれば死んでるのか?考えなければ、其れは死体と同じじゃないのか?
俺は、生きてるんだろうか。
煙を吐いた龍太郎は一層背凭れに沈み、目を閉じた。
結婚すれば、何かが変わるんだろうか。
だからと云って見付けるのは面倒臭い。嗚呼、五年前、両親が持って来た見合い話に乗っておけば良かった。
でも俺が結婚した所で何になる。何も生み出せんのに。
龍太郎にとって結婚とは、恋愛の延長では無く、子孫を残す為の契約だと思って居る。居るからこそ、龍太郎には結婚する理由が無い。
死んでんじゃん、やっぱ俺。
井上の口調を真似、煙草を消した。


*****


「生死の境界線?」
小さな鉢にコップで水をやる宗一は、龍太郎の言葉に振り返った。
一人で来たと思ったら何だか面白い事を口走る。
大きな観葉植物に残りの水を全てやった宗一は椅子に座り、珈琲を飲んだ。
「其れは何?医学的に?宗教的に?道徳的に?社会的に?」
「肉体と魂です。」
「おおう、哲学的か。」
宗一は笑い、煙草に火を着けた。
「医学的には、生命活動
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