暁 〜小説投稿サイト〜
猫の憂鬱
第3章
―4―
[1/9]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
いい加減晴れろ馬鹿野郎、バイクに乗りたい、と朝から課長の機嫌は悪い。おかしいな、今での梅雨時期はこんな激しくなかったのに。宗一と云う爆弾低気圧が課長を取り巻いている、早く薄くなれば良いのだが。
待ちに待った金曜である。早く雪村凛太朗から戻りましたの電話が来ないか、龍太郎は眉間の縦皺を一層深くさせ、電話を睨んでいた。
「え?御前、近眼?」
「違う。目だけは良い。」
「頭も顔もスタイルも家柄も声も良いじゃねぇの、龍太郎様。」
性格は聞くな、と井上は掌を見せ、向かいの木島が吹き出した。
「目付きも悪いだろうが。」
「貴方は全てが悪いですね。」
「そうそう、木島さんなんて、性格は救えなくて、顔も目付き悪ぃ女顔で身長も低い、家鴨口で間抜けだし、頭だって普通じゃん。一番悪いのは女運だぜ。」
髪の美しさだけは褒めてやる、と風船ガムを数個噛み、膨らました。
「なんでそんな髪綺麗なの。」
「知らん。生まれ付きだ。」
「あ?そうなの?」
俺はてっきり、顔に金を掛けても無意味だから髪に掛けてるのかと思ってた、と云うと、木島の真横に居る加納が、キューティクルを此れ見よがしに光らす木島の髪をじとっと眺め、掛ける髪があって良いですね、と秀一からの攻撃を未だ引き摺る発言をした。
「御前だって、髪あるだろう?」
「ええ、御座いますよ?二十五歳にしては、少ないですが。」
御前に禿げと云ったのは秀一であって俺では無い、何故俺に当たるんだ。車に掛ける金を頭皮に掛けたら良いのに、とは思った事無い訳では無いが、触れてやらなかったのに。
髪の長さだって、禿げを隠してるんだな、と生温い目で見守って居たのに。
加納のネガティブさに課長は椅子から立ち上がり、加納の頭を左右から両手で掴んだ。
「若芽食べろ、若芽。」
云い乍ら物凄い握力で加納の頭皮を圧迫し、加納の表情が歪んだ。
「刺激しないから退化するんだ。」
「痛いです、課長…」
「御前は絶滅寸前の見事な黒髪を持ってるんだ。彼奴等見てみろ、光に当たると茶色いだろう。だけど御前は違う。本郷と同じに青い程の日本人の黒髪だ。毛が一本一本太い、日本古来の美しい髪、みどりの黒髪だ。今放置すると、物の見事に抜けるぞ。今ある髪を若芽で頑丈にしろ。確かに木島の髪は綺麗だ、けど、其れは柔らかさでそう見えるんだ。本当に美しい髪と云うのは、加納、御前みたいな髪を云うんだ。」
頭皮に鞭を、心に飴を。
課長の顔を顎上げ見る加納は、腑に落ちない顔で、然し課長は笑う。
「御前に初めて会った時、俺がなんて思ったか、教えてやろうか。」
加納は無言で、木島は俺の髪綺麗だよな?と周りに確認し、そんな木島をあしらう井上、龍太郎は課長の言葉をじっと待った。
「完敗だ、負けたよ。」
ジャケットから携帯ブラシを取り出し、加納の髪を梳かした。

[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ