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猫の憂鬱
第3章
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無言で窓の外を眺め乍ら餡蜜を食べる井上の太腿をテーブルの下で一度叩いた。
「如何でも良いんですが、奥様、よもぎ餅が大好きだとか。」
「そうですよ。世界で一番好きな食べ物が、よもぎ餅です。」
「お子さんがいらっしゃったのは…」
「嗚呼、其れ位なら知ってます。其の子もよもぎ餅が大好きだったらしいです。」
ココアを一口飲み、唇を舐めた。
「雪村さん。」
「はい。」
「奥様は、大変不自然な死に方をされて居ます。」
「と、仰いますと…?」
「胃の中から、アコニチンが検出されました。」
「アコニチン…?」
雪村は当然さっぱり理解出来無い顔で聞き返し、龍太郎は手帳から植物の写真を出した。見た雪村は、何ですか、此れ、と蓬の葉其の物を見た事の無い人間の反応を見せた。
「雪村さん、蓬の葉、見た事ありますか?」
「無いです。植物は判りません…、蔓を持つ植物が朝顔しか知りません…」
「ヨモギは蔓植物じゃないですが…」
「…じゃあ、蒲公英ですか…?」
「うん…?タン…ポポ…でも、無いですね…」
「じゃあ、何ですか?」
「…ヨモギです。蓬…」
「蒲公英って、珈琲にもなるって知ってました?」
「聞いた事はあります…」
「凄い。僕、最近知ったんです。」
「お茶にもなるんだぜ。」
「本当に?蒲公英って有能ですね、お刺身の上にも乗ってるし。」
「…判りました、雪村さん。貴方が非常に、蒲公英を愛してらっしゃるのは判りました。」
「僕、向日葵が一番好きです。」
「そうですか、私は桜です…」
井上一人が笑って居た。
気を取り直す為龍太郎はココアを飲み、一咳した。
「此れは、あの、トリカブト、と云いまして…」
「…何…?」
「トリカブト。蓬の葉に……雪村さん…?」
雪村の顔は氷結し、蒲公英だ向日葵だなんだと云っていた時とは真逆の顔で固まって居た。
「トリカブト、だって…?」
流石にトリカブト位は知っていたかと安心した矢先、今度は龍太郎が氷結した。
「彼女の息子、トリカブトを食べて死んでるぞ…?」
「はい…?」
「いや、此れは確かだ。本当に。彼女、前の旦那に殺されそうになってるんだ。其れで、間違って息子が死んでるんだ。」
井上もポカンと口を開けた儘聞き、龍太郎と見合った。
「息子が、トリカブトを食べて、死んでる…?」
「そう、あの、彼女、莫大な財産があったらしいんだ。その、なんだっけ、父親…」
「葵早雲?」
「葵早雲!其の遺産。凄い、凄いの。」
両手で山だか雲だかの形を作る雪村は興奮し、現金もだけど絵、其れ、と赤いのか青いのか判らない顔色をする。
「其れを、ね?判るでしょう?彼女、一人っ子、だから、ね?」
興奮と云うよりは、青山涼子から聞いた話に恐怖を感じた風で、言葉が段々と片言になって行った。そして妙に、女っぽ
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