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猫の憂鬱
第3章
―4―
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だろうが食べない。腐った物等、鼻であしらわれて終わる。
矢鱈人間のを食べたがるのは、其れは偏に、人間の食事の方が良い匂いがするからである。人間の食事を欲しがらない場合、其れは猫の方が良い物を食べている証拠だ。
良く云うだろう、例え自分が煮干しだろうと、猫には和牛を与えると。
此の精神で一度、生活保護受給者が餓死している。
自分は食えんでも、猫達には食事を与えにゃならん。
側から見れば馬鹿の一言でばっさりだが、動物を自分より愛する人間には納得出来る話なのだ。猫だろうが犬だろうが、自分の命より、言葉通り大事なのだ。
此の猫が矢鱈鳴いていたのは、腐敗臭だ。
多分、生まれてから一度も嗅いだ事の無い臭いを知り、然し見えないから何が起きて居るか判らない、結果鳴き続け、雪村が驚いた。
雪村は、自分に対しては鳴かない、と云っていた。此れは鳴かずとも雪村が自分の存在を認識するから。龍太郎達に対し、確認のように鳴いて居たのは存在を教える為。
本人…本猫が見えないからの確認である。
おまけに匂いも雪村と違う。本当に自分が相手に見えて居るのか、鳴いて注意を引いて居たのだ。
そして主人最大の特徴、利き手。
見えない分、感覚に安心感を求める。
幾ら嗅覚で生活するとは云え、視覚も大事だ。完全なる室内猫は、窓から外を見るだけでも充分テリトリー意識を満たされ、安心する。だから猫は何時も外を見ているのだ、下界の監視で。
其れが無いのだから、此の猫の安心は感覚に頼るしかない。
其れが、左利きの雪村。
龍太郎はペンを回し、頭を動かした。
「奥様は、此の猫を如何思ってたんです?」
「其れはもう大好きでしたよ。わらびに惚れて僕と結婚したいって云った人ですから。」
「懐いてました?」
「懐いてると云ったら懐いてましたけど、なんかしっくり来ない感じでした。なんか違うのよね、って。」
「…若しかして、左腕で支えてませんでした?左腕で抱っこして、右手で撫でる。」
龍太郎のした仕草に、そうです、そう、と雪村は云った。
「此れ、私達が気付いた事なんですが、私と、もう一人、左利きの刑事が居るんですが、其れには凄く、彼女懐きました。然し、右利きの刑事には、余り懐きませんでした。其れで、彼女…わらびちゃんは、左利きの人間に溺愛されていると結果出しました。」
「嗚呼…、嗚呼そういう事なのか。」
「其れが何故か、私達には判らなかったんです。わらびちゃんは奥様の猫だと、誤認して居たから。謎が解けました、貴方の、猫で、且つ、全盲だったんですね。」
「そうか、嗚呼、刑事さんの仰る通りです。涼子に抱かれるのが余り好きじゃなかったのは、そういう理由なのか。」
相性が悪い訳では無いのに何故だろうと考えて居た分、雪村は世紀の大発見をしたとでも云うような顔で驚いた。
「其れと。」

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