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猫の憂鬱
第3章
―4―
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親のは要る?」
「いいえ、良いです。」
井上から受け取ったコピーを確認する雪村は無表情で、読み終わっても無表情で有難う御座います、把握しましたと云うだけだった。
「あんた、マジで淡白だな、龍太そっくりだわ…」
妻になろうとする人物の過去に興味が無いと云い、然し知ったから如何だと、其の無表情は語る。
「だって、ねぇ。」
ちらりと龍太郎を見た。
「世の中にはな、拓也、本当に他人に興味無い奴も居るんだよ。」
「でも、嫁だろう?犯罪者だったら如何すんだよ。結婚詐欺師とか、保険金殺人犯とか。」
「仮にそうだったとしても。」
もう死んでるし。
龍太郎と雪村の声は同時で、井上は呆れた。
アッチの方も淡白なんじゃねぇの。
井上は煙草を蒸し、窓の外を見た。
龍太郎は気にせず言葉を続けた。雪村が青山涼子に興味希薄だろうが、龍太郎に興味は無い。
「お二人は如何やってお知り合いになったんですか?」
「此の子ですよ。」
云って雪村はテーブルの写真を指した。
「わらびって云います、此の子。」
「ワラビ?」
「蕨餅の、わらびです。似てるでしょう?茶色くてふわふわしてる所が。」
「…成る程。」
判らん、と一応手帳に名前を書いた。
「わらびが迷子になった時、保護してくれてたのが彼女だったんです。」
「え…?」
「一寸待って下さい、此の猫は…わらびちゃんは、貴方の猫なんですか?」
「そうですよ、僕の娘です。」
ウィキペディアを読んでいた先入観でか、此の猫はてっきり青山涼子の猫で、結婚と一緒に雪村と住み始めたとばかり思っていた。
「わらびは、生まれた時から目が見えないんです。」
雪村の一言に龍太郎の全身は粟立ち、此の猫の行動理由がはっきり判った。
目が見えない、詰まり感覚と臭覚、聴覚で頼るしかない。
「目が見えなくて、貴方が飼い主…?」
そういう事かと龍太郎は納得し、此の猫は人間の利き手で飼い主を把握している。
猫は、視覚では無く嗅覚と聴覚で生活すると云って良い程、両器官が発達した生き物だ。特定の音で主人の帰宅を覚えるのが此れだ。
主人の靴音をきちんと認識していたり、例えば主人が鍵にキーホルダーや鈴を付けていた場合其の音に反応するのも同じだ。
だから、普段ヒール靴を履いている主人がスニーカー等ヒール靴が持たない音を持つ靴を穿いて外出した場合、音に反応はするが其れが主人の物だと気付かない。ドアーを開けて初めて、帰って来たんだと認識する。なのでこそっと、物陰から覗いて居たりする、顔を見てお帰りと鳴く。認識する音だと玄関先でスタンバイしている、なんとも可愛い生き物である。
そして臭覚。
猫が食べ物の匂いを嗅ぐのは、其れに依って食べられるか否かを判断する為で、故に猫は“美食家”と云われる。気に入らない物は例え和牛だろうがフォアグラ
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