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猫の憂鬱
第3章
―4―
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御前程完璧な男、俺は知らん。頭も良けりゃ顔も良い、家柄も完璧なら学歴は化け物だ。何が悔しかったか、此の髪だよ。綺麗な芯のある黒髪。俺が人生で何よりも望む物を御前は持ってる。」
「ワタクシ、課長の白髪(ハクハツ)好きですよ。」
「有難うな。」
ブラシを仕舞った課長は一旦自分の席に戻り、抽斗(ヒキダシ)から鏡を出すと加納に渡した。唖然と自分の頭を見る龍太郎達に、変わる訳無いのに、と加納は鏡を覗いた。
愕然とした。
此れが、自分の髪の毛なのだろうか。
「頭頂部が…頭頂部の髪がぁ!」
「あるぞ加納!」
「ゴッドハンド…」
「凄い…」
「膨らんでる!」
除菌ウェットティッシュで手を拭く課長は、御前は多分禿げじゃない、と云った。
「御前、ずっとワンレンじゃないか?」
「まあ。」
「だからだよ。だから形状が固定されて、真ん中がぺったんこなんだよ。で、髪質が硬いから髪の毛が持ち上がらないで、一層ぺったんこに見える。旋毛が丁度真ん中にある、だから益々真ん中に型が付く。且つ油分が多い。今、左右にブラシを入れたから膨らんだ。大丈夫、御前は禿げじゃない。」
と思う、判らんが、と課長は椅子に座り、鏡を見て興奮する加納の姿に薄く笑った。
「ワタクシ、久し振りに自分の顔見ました、木島さん!」
こんな顔だったっけ、と鏡を近付けた。
「あ、そっか。御前ん家、鏡無いんだっけ。」
「如何云う事よ…」
「いやな、加納、自分の顔大嫌いらしんだ。」
自分の顔を好きな人間はそう居ないかも知れないが、加納程徹底した自分の顔嫌いも珍しい。秀一と云い加納と云い、やる事が極端過ぎる。天才とは矢張り、凡人には到底理解出来ない思考を持っているのだなと龍太郎は思った。
低いモーター音。
ディスプレイに、待ち望んだ人物の名前が浮かび上がっていた。
煙草を消した龍太郎は井上の肩を叩き、何時でも出れるよう準備する指示を出した。
「本郷です。」
「雪村です。遅くなりました、今、此方に着いた所です。」
四十分程で喫茶店に着くと雪村は云い、今が丁度四時半である、五時半に待ち合わせましょうと電話を切った。
「おっし、待ってたぜぇ、雪村の旦那。」
椅子から立ち上がった井上は大きく背伸び…したのだが、腰に走った激痛に両腕を突いた。
「ビキって行った…、ビキって…」
「使い過ぎだ、馬鹿…」
「腰痛は男の勲章だ、馬鹿…」
「行くぞ、馬鹿…」
井上の腰を叩いた龍太郎は椅子からジャケットを取り、博士に電気流して貰おうかな、と井上は呟いた。
「報告は明日で良いぞ。」
「良いんですか?」
「だって俺、帰りたいもん。」
ゆったりとカップ傾ける課長は云い、雨の上がった空を見た。
天気予報が云うには今から雨が降る確率は低い。地面から水分が飛んだ時間が大体龍太郎達が戻る時間だ
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