第2章
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「はい。」
「書いて。同じ文字、書いて。」
マーカーを受け取った加納は、ホワイトボードの余白に文字を書き、其の書き方に全員が首を傾げた。
「何だ、其の書き順。」
「そう、此の書き方。有難う、其れだけを見せたかった。」
加納の書いた文字の始点に丸を付け、酷いな、と課長は呟いた。
「本郷さんは、わい等と同じに手根を縦にして書く。だから綺麗なんやけど、馨ちゃん。此れは左利きに多く見られる書き方で、手根が上に来る。文字を囲うように手を置き、上からペンを動かす。そうせんと、横に書く時見えんからや。ほんでそんな持ち方をする奴最大の特徴。横線の始点が全て、右から始まっとる。左から右に押す、其の動きを馨ちゃんは、右から左に“引いて”るんや。依って、左側…本来なら始点である場所が上に跳ねとる。本郷さんの場合、終点が下がる。右利きは終点が上がる。そうする事で筆記体になる。」
課長書いて、と八雲はマーカーを渡し、座った儘課長は縦と横に同じ文字を書いた。
「素晴らしい、なんと言う達筆。」
素晴らしい遺書、と八雲は写真を取った。自殺する時言うて下さい、此れプリントアウトしますから、と電話を仕舞った。
「木島、書いておけ。」
「嫌だ!」
「自殺に見せてやるから。」
「模造犯!」
聞いた龍太郎は無言で書いた文字を指で消した。
「此の妻は多分、縦に書いた時、課長さんと同じ感じになる。特徴が似とる。」
便箋の拡大コピーをまじまじと見る八雲は、此れを書いた人物は模造或いは造形が得意、と龍太郎を見た。
「犯人は左利きで、クリエイティブな…サディスト?」
龍太郎の問い掛けに八雲は頷き、建築家とか、と夫の写真を白衣のポケットから出した。
「建築家は空間処理能力が凄まじく高い。頭の中で空間を計算して設計するから。」
「他には?」
「アーティスト。特に彫刻家。此れも空間処理能力が凄い。或いは模造を完全に職業にしとる人。絵画とか、コピーで無いきちんと絵の具で描かれた模造品売ってる場合あるやろ?あれにはちゃんと職人が居てんねん。売る方も買う方も偽物やて判ってるから問題無いけど。後映画とかの小道具。美術関係やな。」
後は考古学者かな、模造はお手の物やから、と肩に乗る猫の鼻を舐め、笑った。
「後もう一つ、ネクタイの結び目が逆や。」
梁と首に絡まるタイの結び目の写真を貼り付けた宗一は、此処迄徹底的に左利きの痕跡を残し、良く自殺に見せようと思ったな、と関心した。
「総合的に見て、犯人は阿保なんですね。以上。」
「此れにて授業終了。」
指を鳴らした秀一はファイルを持ち、木島の首にショックペンを当て、部屋を出た。
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