第2章
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収した日記、同じ文字を取ったやつな。先ず此の“す”な。」
二枚のコピーの下に“す”と八雲は書き、赤いマーカーに持ち直した。
「“す”の書き順は、横、そして縦。」
キャップを付けた侭ホワイトボードの文字をなぞり、キャップを外し、コピーに丸を付けた。
「此の女は行書体や草書体に似た書き方をする。横、から縦、に続く此処、に三角形が出来る。で、わいは、癖があって、同じ右利きなんやけど、横線の後、何故か払いみたく下に向くねん。此の女は線で表すと、東西南北記号の、西を右に置いた形んなる。此の方角記号は、東から始まり、西、其処から北に伸びて、南で終わる。此れは絶対や。で、わいの“す”を線で表すと、北が下に向く形になんねん。三角形が下に向く。此の女は、東、西北、南、で終わる。わいは、東、西、そして北、からの南で、北に戻る。」
何でこんな書き方なんやろ、と自分で思った。
「そして最大の特徴。此の、最初の三文字、共通してる場所。」
「はいはいはい!」
「煩い、長谷川さん。お宅には聞いてない。」
挙手をする秀一を一瞥もせず八雲は続け、青いマーカーを手にした。
「此処や、丸い場所。此の場所。」
双方のコピー、円が始まる場所を囲んだ八雲は、龍太郎を手招いた。そしてマーカーを渡し、此の三文字書いて、と云った。
「本郷さんは、左利き。其の特徴で、丸が始まる、此処、此処に圧が掛かる。“す”の場合、始まった丸は上に向かい、又其処で丸みを持ち、下に流れる。“ま”と“み”は、下から持ち上がり、左から右に向かう。此れを、右利きでは“引き”、左利きでは“押し”て言う。右利きの人間は基本、丸の部分に圧は掛からん。課長さんの文字がそうや、始まりと終わりにだけ圧が掛り、真ん中は擦れとる。丸を描くのに余分な力を要するんは、見えへん左利きだけ。ほんで本郷さんの“す”、ほんま綺麗、めっちゃ綺麗、でぇも、真ん中の此処に圧が掛かっとる。先にも言うた通り、持ち上げるからや。み、も此処、所謂“引き”の時、“押し”に変わるから、此処が濃い。此の便箋の文字。全く同じ特徴を持っとる。此の便箋の文字を書いたんは左利き、絶対や。」
俺の言葉が信じられんか?なら科学の力を見せてやろう、と八雲はファイルから十枚の書類を出した。
「此れは筆圧計測器で測った両方の文字や。」
八雲は縦に五枚づつ並べ、赤のマーカーを持ち直した。
「上から圧力を変えとる。一番下が、最大圧力箇所や。点しかないやろ。見比べてんか、完全に違うやろ。」
マーカーで囲まれた最大圧力箇所を見た龍太郎は、自分と同じだ、と頷いた。
「そぉ。左利きの人間なら此の圧の掛かり方、説明せんでも判る。始点。此処に一番圧が掛かる。何で?本郷さん。」
「押すからだ。」
「左利きの人間は、文字を押して書くと云ってもええ。又もう一つの特徴。馨ちゃん。」
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