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猫の憂鬱
第2章
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、五十嵐には、違う、此れはムスカリじゃない、と首を振った。
井上、赤っ恥である。
「似てますよ!」
「萼片は似てるかも知らんが、葉が全然違う。ムスカリの葉は睡蓮や桔梗みたくシュッとしてる。」
「ええ、嘘ぉ…、似てるよね?」
「済みません、博士。此奴馬鹿なんです。」
「大丈夫、何と無く判ってた。飼い主、答えなさい。」
「え…?」
火の粉が飛んだ井上は五十嵐を睨み、寄ったファイルに口を近付け、トリカブトと答えた。
「何故だ、飼い主は賢いのに。」
「御免なさい、イノさん…」
「しょうがねぇ、五十嵐だもん。」
「本郷君は、判るよな?」
ファイルで首を叩く秀一を見上げた龍太郎は、飼い主は馬鹿かも知れませんが、と前置きした。
「トリカブト…?」
「エクセレーーント!エレ・キ・テーール!」
素晴らしい、御見事だ本郷さん、と秀一は両腕を広げ、ホワイトボードに戻った。
「アイアム ジーニアス!」
ホワイトボードに写真を貼り付けた秀一は叫び、誰だこんな変人世に放ったの、嗚呼其処の天才外科医だった、と木島は無言で傍観した。
「此の女の死因は、呼吸困難に依る窒息死ではあるが、原因は首に絡まるネクタイじゃない。先生。」
「はいよ。」
秀一に代わり、今度は宗一が流れるようにホワイトボードにマーカーを流し、首元の写真を貼った。
「彼女の食道には胃液逆流の痕跡がある。首を吊った場合、大概此の痕跡は見られるが、彼女のは死後のものでは無く、存命時に起きている。此れに依り気道が塞がれ、窒息したと見られる。トリカブトの毒、アコニチンは摂取してから二十分程で中毒症状が出る。此のアコニチンは青酸カリ…シアン化カリウムと毒性、致死量、即効性、共に酷似する猛毒だが、生憎解毒剤が無い。胃を洗浄し、心拍や呼吸に異常を起こしていたら人工呼吸機と強心剤を投与する。死亡率が集中するのは、摂取してから一時間乃至六時間。然し、二十四時間以上アコニチンの猛毒に耐えれば生存出来る。」
咥え煙草でホワイトボードに文字を書き流す宗一は、一旦呼吸を置き、短くなった煙草を目に止まった課長の珈琲カップに捨てた。ニコチンと灰が染み込んだカップを持った課長は、今にも泣きそうな顔で辺りを見渡した。当然宗一は気に留めず、新しく煙草を咥えた。
「長谷川。」
「アコニチンの中毒症状は、摂取してから二十分程で口に痺れを感じる。此れが、第一症状だ。初期症状では、のぼせ、顔面紅潮、目眩、四肢の痺れ、胃や食道に強烈な熱さを感じる。そして中期に酩酊状態が見られ、末期症状で、チアノーゼ、瞳孔散大、体温低下、血圧低下、不整脈、呼吸麻痺を起こし、処置が行われなかった場合死に至る。」
「アコニチンでの死亡理由の大半は、心室性不整脈だ。アコニチンは心筋細胞のナトリウムチャネルの活性化を引き起こし、後は判るな、此れ
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