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猫の憂鬱
第2章
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初めて雪村邸を見た木島は、建築家ってそんなに儲かるのか、と紫煙を流した。発見から三日経った事もあり、警察の姿は無い。代わりに立ち入り禁止のテープが門に貼られている。
潜った二人はドアーを開き、饐えた臭いを鼻に感じた。
「臭いが染み付いてるな。」
「死後三日ですからね。」
「如何せ死ぬなら、旦那が帰宅する当日か前日にすれば良いのに。娘に何を見せてるんだよ。」
木島の何気無い一言に、今更乍ら木島の着眼点の違いに関心した。
死後三日、猫はずっと、妻の死体を眺め、過ごしていた。一人で鳴き乍ら、雪村が帰って来るのを待っていた。
そんな猫を放置し仕事に行くとは思えないが、あの日、雪村が猫を抱いて家を出た記憶が無い。調べ終わる迄自宅には入れないと云ったのは龍太郎本人で、だったら暫くホテルに居ますと出張用の鞄を持った。
唯、其れだけだった。
猫の事等眼中に無いように雪村は家を出た、そして一時間程署で話を聞き、ホテル迄送った。
其の時一言も、猫について触れなかった。
愛情はあるのだろうが、余所余所しいと云おうか、変に淡白であった。
ネェ…。
聞こえた其の声に龍太郎は視線を向け、矢張り居た。
縫いぐるみみたいな体躯でじっと龍太郎を見上げ、リビングに繋がる廊下端に猫は居た。
「本当に居る。」
云って木島はしゃがみ、猫に手を伸ばした。人懐っこい性格なのか、龍太郎に会った時と同じように指先を嗅ぎ、そして身体を擦り付けた。猫は其の侭太い尾を木島の顔に擦ると又、ネェ…、と木島の後ろに立つ龍太郎に話し掛けた。
「なんだ?」
龍太郎が少し身を屈めると木島の時には鳴らさなかった喉を鳴らし、足の間を何度も往復した。
乾いた空気、饐えた臭い、家の呼吸も人間の呼吸も無い場所で猫は呼吸をする。其の緑色の目で、じっと乾いた空気を眺める。
科捜研側が今朝か或いは昨日来たのか、トイレは綺麗に掃除されていた。カウンター式のキッチンを覗くと、其処が猫の食事スペースなのか、黄色いトレイの上に黄色の汚れた食器が置かれていた。
ガササ、と音がし、何事かと視線を向けると、自動で食事を補充する機械の補充音であった。猫は其れに近付くとカリカリと小さな音を立て食事を始めた。
金曜迄未だ日がある、其の間にもう一度来るからなと食事をする猫に云うと、ネェ…、と愛らしく鳴いた。


*****


「右利きやて、先生ぇ。」
午後七時、何時迄経っても来ない八雲に業を煮やした龍太郎は宗一に電話を掛け、夕方に来るんじゃなかったのか?と散々文句を云った後に、利き手を教え電話を切った。
完全に忘れていた。そう云えば夕方行くとか云っていた、自分で決めて起き乍ら無責任だが。
然し、八雲の辞書に責任と云う言葉は無い。本郷さんから電話、と宗一から電話を受け取って
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