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猫の憂鬱
第1章
―4―
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い考えで馬鹿とは話さないという体だった。
木島ははっきり云って、秀一に恐怖心を抱いている。
高校三年の秋の話。
筆記具を丁度持って居なかった木島が、目の前に座っていた秀一から、一寸ペン貸して、とノック式のボールペンを取った。ふんふん、と木島はクラスメイトの要件をプリントに書こうとペン尻を押した瞬間、悲鳴を撒き散らした。
いきなり流れて来た電気に木島は悲鳴撒き散らし乍らペンとプリントを落とした。木島と一緒に居た生徒も、教室で其々に楽しむ生徒も、木島の悲鳴に談笑の口を止めた。

ひぃええええい、だって、いっひっひ、うけるー。

しんとした教室に秀一の明るい声が響き、初めてまともに秀一の声を聞いた木島は、一瞬誰が話しているのか判らない程だった。
床に落ちるペンを拾い上げた秀一は、目が合った瞬間怯える木島の挙動に口角を吊り上げ、電気が流れた手を握る、其の手の甲にペン尻を押し付けた。

ういいいいい、だって。御前の悲鳴、面白いな。

え?え?と木島と秀一を交互に見る生徒にも、何見てんだ、とペン尻をこめかみに押し付けた。
はああ!?と教室中から批難めいた悲鳴が上がり、ホームルームで教室に入って来た担任は、教室の騒がしさになんだなんだと視線を流した。
此の担任教諭は化学で、依って、部員である秀一の危険性を誰よりも把握していた。思えば高校三年間、秀一の担任は此の教諭だった。要は中学時代の悪行で監視されている。

シュウ、其のペン、俺に渡せ。良いから、渡せ。一週間出入り禁止にするぞ。

秀一が蛇の目と表現されるなら、此の教諭は鷹の目だ。
秀一は大人しく教諭の手にペンを乗せ、すとんと椅子に座り直した。

いやいやいや、謝ってよ。

何事も無く座った秀一に木島は詰め寄ったが、関わるんじゃない、としっかり教諭に釘を打たれた。腑に落ちない乍らも木島は頷き、自分の席に行こうとする自分を追う秀一の目に心臓がばくついた。
其の日の放課後、教諭はああ云ったが、何が起きたのか知りたかった木島は無謀にも秀一に話し掛けた。

――あれ、何?
――エレ・キ・テル氏。俺の恋人。
――はい?
――電気が流れるペンだ。
――なんであんな事するの…?
――俺はしちゃないさ、御前が勝手にペンを取ったんだろう。自爆だ。
――物騒だよ!
――此れに懲りて、此れからは他人の物を無断使用しない事だな、生徒会長さん。
――断ったじゃん…
――良い、とは一言も云わなかった。勝手に取ったのが御前だ。俺が渡したペンであの状況になったのなら、故意だとなるが、御前が勝手に取っ……
――もう良いや、御前話長い。

矢張り、担任の言った通り関わるべきでは無かった。
世の中には、関わってはいけない人種、というものがある。其れが秀一だと木島ははっきり判った。
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